【主張】「過重労働」で異例の判決
長崎地裁は、具体的疾病を発症していなくても、2年余にわたり労働者に過重労働を続けさせた行為は安全配慮義務違反に当たるとして、食品加工の㈱狩野ジャパンに損害賠償の支払いを命じた(本紙10月28日号5面に詳細)。
脳・心臓疾患発症などの原因となった過重労働に対する安全配慮義務が問われるのがこれまでの一般的ケースであり、同判決は異例といえる。企業経営者としては、健康被害の訴えがないからといって漫然と過重労働を続けさせていると、退職後などに提訴される可能性がある。過重労働そのものが社会的に強く問題視されている現状から考えると、今後、同種紛争が増加する可能性があろう。
同判決によると、労働者が結果的に具体的な疾病を発症していなくても、安全配慮義務を怠って長期間にわたり心身の不調を来す危険のある長時間労働に就かせたとして、「人格的利益」の侵害による不法行為と断じている。人格的利益の侵害により労働者に精神的苦痛を与えたことは容易に推察できるとして慰謝料の支払いを命じた。
実は、平成28年にも東京地裁が同種判決を下している。このケースでは、1年余にわたり概ね80時間またはそれ以上の残業を行わせたことに関し、労働者を心身の不調を来す危険のある長時間労働に就かせたと判断、慰謝料相当額の損害が認められるべきであると判旨した。
両判決ともに、安全配慮義務を、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべぎ義務と指摘。にもかかわらず、タイムカードからうかがわれる労働の実態について注意を払わず、結果として何ら改善指導などを実施しなかったとしている。
たとえ、社内において脳・心臓疾患の発症がなくても、過重労働による慰謝料請求が認められる可能性が強まっているのは明らかで、同種裁判の増加が予想される。労働者のワーク・ライフ・バランスを大きく損ねる過重労働そのものが社会的批判を集めている点を考えれば、やむを得ない判断だろう。