【主張】喫煙対策を ”世界標準”に
厚生労働省は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、受動喫煙防止対策を新たな段階に引き上げる方針を打ち出した(本紙10月31日号1面既報)。方針案では、事業所、飲食店、娯楽施設などにおいて原則建物内禁煙としながらも、煙が流出しない設備を施せば喫煙室の設置を認めている。併せて、喫煙ルールに違反した場合の罰則を設ける方向だ。
世界的にみると、事業所、飲食店などを含め、罰則付きで建物内全面禁煙の国が主流となっているなか、厚労省案は日本らしい折衷案と考えていい。受動喫煙防止対策の「後進国」日本としては、これでようやく「先進国」の背中が見えてきた。他者に理不尽な疾病リスクを負わせる喫煙は、罰則をもって禁止するのがいまや世界の常識である。
日本では現行法上、事業所・学校・官公庁・鉄道駅などにおいて、禁煙または分煙が努力義務に留まっている。本紙既報の通り、世界の49カ国に建物内全面禁煙を課す法律があることなどから考えて、日本の受動喫煙防止対策の現状は「最低レベル」にある。
実際に、日本の多くの飲食店では、禁煙タイムを設けるなど表面的に対策を講じているようにみえるが、煙が室内に漂ってしまえば意味はない。努力義務のアリバイ作り以上のものではない。
受動喫煙を原因とする死亡者が、日本で年間1万5000人いるというのも信じ難い。厚労省方針が、喫煙室設置を認める折衷案とはいえ、煙の流出が完全に防げれば、疾病リスクは大幅に減少できるはずである。
しかし、問題は事業所、飲食店などでの全面禁煙あるいは喫煙室設置に現実味があるかである。零細規模の飲食店を想定すると、そもそも喫煙室設置は無理であり、全面禁煙を選択する外はない。業界団体が、これを受け入れるかどうかだ。厚労省と業界団体との間で予定されている今後の交渉に掛かっている。
厚労省職員が「先進国」のイギリスを現地視察したところ、全面禁煙となっている飲食店での違反喫煙は全くみられなかったという。国民の質的レベルも問われている。