【主張】「賃金減額」へ妥当な判決
高年齢者の定年後再雇用時における賃金の取扱いで、歓迎すべき高裁判決があった。
セメントや液化ガスの運送会社の運転者として勤務する高年齢労働者が、再雇用後に2割程度賃金を引き下げられたとして訴えた長澤運輸事件(本紙11月14日号3面既報)で、東京高裁は賃金減額に「合理性」を認め、今年5月13日の地裁判決を取り消した。
「合理性」認定の最大の理由は、高年齢者雇用安定法で高年齢者の継続雇用が義務化され、その際、多くの一般的企業において賃金を一定割合減額する取扱いとなっていたためだ。定年時に退職金を支給していることなどを考慮しても、賃金減額自体は不合理とはいえないとした。
裁判例には、定年延長後における賃金減額を伴う労働条件設定を有効とするケースが多数あり、この流れと整合性のとれない原審に疑問を呈する見解もあった(本紙9月5日号14面・中町誠弁護士)。
高年齢者の継続雇用は、政府ないし社会的要請により行っている側面が強い。他方で若年者採用も積極化していかなければならない状況にあって、高年齢層の一定割合の賃金減額によるコストダウンは、企業経営として当然のことだったはず。高年齢者の雇用促進にとっても妥当な判決と評価できよう。
高裁判決では、会社側の賃金減額を、労働契約法第20条でいう期間の定めの有無に関連した措置と認めたが、この減額を「合理性」ありとした。これに対し、原審では、職務内容、配置変更の範囲など正社員との間に人事管理上ほとんど違いがないにもかかわらず、労働条件に格差を設けるには特段の事情がないと認められないとして、「不合理」とした。
高裁判決と原審の考え方の違いは、同一労働同一賃金をどこまで貫徹するかにある。
同一労働同一賃金を重視するのであれば、職務内容も責任も変わらない高年齢者の賃金減額は容認しがたい。しかし本来、労契法第20条の制定時において同一労働同一賃金は採用されていなかった。
ただし、労働条件の変更に合意を得る努力を怠らないよう注意を促したい。