【見逃していませんか?この本】番組内に分かる人には分かる笑いのタネを仕込む/藤井健太郎『悪意とこだわりの演出術』
現在、TBSでバラエティ番組のプロデューサーを務めている筆者が、初めて描き下ろしたのが本書。かつては『ひみつの嵐ちゃん』や『リンカーン』の担当もしており、氏の手掛けた番組をご覧になった方は少なくないのではないだろうか。
番組づくりのこだわりを存分に明かしている点が読みどころ。ナレーションとテロップをうまく使い、「知っていたら面白くて、知らない人には気にならない」ようなツボを番組中に配していることを明かす。一例を取れば、『水曜日のダウンタウン』において、映画『メメント』をネタに、分かる人には分かる笑いの種を仕込んでいる。
音楽にもこだわっている。番組のイメージにフィットするもの、あるいは番組の内容に引っ掛けたものをチョイスしており、これもネタが分かる人にとっては笑わずにはいられないところだろう。
このような仕掛けを番組内に組み込むことでの効果も示す。ツイッターなどのSNSで答え合わせが瞬時にできる時代のため、自分のなかで気付きを完結せず、共有することが可能だとし、面白さも倍増するのではないかと指摘する。また、小ネタ遊びを繰り返すことで、「実際には何でもない部分でも『アレにもなんか意味があるんじゃ』と、熱心な視聴者が勝手に深読みをしてくれるようにもな」るとする。
ただ、この「こだわり」は、あくまで遊びの部分としており、本線の邪魔にならないようバランス感覚を持つことに注意を置いているとも。
フリーランスの立場のスタッフと多く仕事をするなかで、「サラリーマンこそ失敗を恐れずにフルスイングすべきではないか」との境地に達した点も興味深いところ。
ちょうどこの秋から『クイズ☆タレント名鑑』が装いを新たに、数年のブランクを経て『クイズ☆スター名鑑』として復活した。芸能人をネタに、あらゆるクイズを解いていくこの番組は、テレビ好きにはたまらない代物。日曜夜7時、是非観ていただきたい。(M)
◇
ふじい・けんたろう、双葉社・1404円/1980年、東京都出身。TBSプロデューサー。2003年にTBS入社、現在の担当番組に『クイズ☆スター名鑑』『水曜日のダウンタウン』など。