「非効率な仕事」の意義/久志田社会保険労務士事務所 代表 久志田 諭
私が社労士として開業したのは平成21年8月。お陰様で、開業から10年を迎えた。当初はまったく仕事がなく、鳴りもしない電話をひたすら事務所で待っているような時代だった。
そんな中、ある方からお客様としてF社のA社長をご紹介いただいた。当時、F社は唯一のお客様だった。A社長とはよく話をした。そして、F社の中長期的な経営計画、人材の採用・育成計画、経営課題、業界の動向、社長の夢など、いろいろなことを聞かせてもらった。
現場もよくみせてもらった。それぞれの従業員の仕事内容や、導入している機械設備についても説明してもらった。さながら社会科の授業を受けるかのようにF社に対する理解を深めていった。そんなこともあって、入退社の手続き1つにしてもF社への思い入れを持って仕事をするようになった。賃金台帳などから垣間みえる問題点についてもA社長と話し合った。最初は聞く耳を持たなかったA社長も、人間関係を築くにつれて話を聞いてくれるようになった。私自身もF社の役に立てているような気がして仕事が楽しくなっていった。
昨今、働き方改革、生産性の向上などの言葉が行き交い、AIの進化など、時代がどんどん変わっていくなかで、仕事に効率性を求めていくことは自然な流れだろう。仕事の効率化は大変すばらしいことであり、それを否定はしない。しかし、あまりにも仕事の効率化を求めることには疑問を抱くときがある。非効率な仕事とは、手間の掛かる仕事ともいえるが、私はあえて手間の掛かる仕事をすることも必要ではないかと感じている。
当事務所の顧問税理士は「久志田先生はお客様との接触頻度が高いが、非効率的だと思う。わざわざ直接会わなくてもスカイプなどを活用すれば良いのではないか? わざわざ会社に足を運ばなくても来所型にすれば移動時間を削減できるではないか? もっと仕事の効率化と省力化を図り、時間の有効活用を考えた方が良い」という。私としては、非効率かもしれないがあえて手間の掛かる仕事をしてこそ、そこに付加価値を生むことができると考えている。
社労士の目的は「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」である。お客様である企業のことを知らずしてその目的は達成できないだろう。社長と話し合い、社長の考え方を理解することの大切さ、きちんと現場に足を運び従業員の労働環境を見て知ることの大切さ。そのことを実体験として教えてくれたのはF社のA社長だったと思う。
久志田社会保険労務士事務所 代表 久志田 諭【新潟】
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