【主張】賃金消滅時効3年は妥当
厚生労働省が今通常国会に提出する労働基準法改正案によると、賃金請求権の消滅時効期間について、改正民法とのバランスを踏まえ「5年」とするものの、当分の間は「3年」を維持する内容となった。本紙では、以前から賃金台帳などの記録保存義務期間に合わせて3年程度とすべきと主張しており(令和元年6月10日号2面本欄参照)、妥当な判断と評価できる。
審議会の議論のベースとなった専門家による検討会報告では、賃金請求権の消滅時効は、「民法に合わせて5年」が委員の共通認識となっていた。中間的な3年や4年とする特別な理由が見出せなかったとしている。この時点では、現行の「2年」が、一気に「5年」に延長される可能性が高まっていた。
本紙では、消滅時効期間が長期化すると、労使紛争の発生確率が高まるばかりか、労使双方の主張が不明確となり紛争自体が長引く可能性を危惧した。労使関係安定と生産性の側面から考えれば、「5年」は長過ぎる。
日本商工会議所は、時間外労働時間の見解の相違などで労使の主張が異なる場合、2年であれば確認がある程度できるが、5年も経つと責任者の異動や退職の確率が高まり、事実確認ができなくなると訴えていた。経団連でも「正確な記録の確認が困難」とみている。
労基法改正案では、最終的に「5年」をめざすが、当分の間、同法第109条に規定する記録保存義務期間に合わせて「3年」とし、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金などに係る一定の労働者保護を図るとしている。また一気に消滅時効期間を長期化すると、労使の権利関係を不安定化する恐れがあると指摘。紛争の早期解決・未然防止という消滅時効の本来の役割が損なわれかねない点を懸念した。
法施行から5年経過後の実施状況を勘案しつつ検討を加え、必要な措置を講じるとしているが、この時点でも直ちに「5年」に延長するとは明記していないことに注目したい。法施行後に状況が変化しているか、公労使で再検討すべきことには異論はない。