人間力問われる時代に/堀口社会保険労務士事務所 所長 堀口 沙里
経済産業省のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が着々と具体的になり、全国社会保険労務士会連合会には「GビズID」普及の協力要請が来るなど、社労士の業務領域が大きく変化しそうだ。しっかり適応していかなければと、スタッフの顔をみながら、事業主として考える毎日である。
さて、デジタル化が進んでも今後残る業務に、相対での会話を必要とするものがある。障害年金請求相談で出会った素敵な方のことを思い出したので少しご紹介したい。
ある初夏の日に弊所にいらしたその方からは、柔らかい時間が流れていた。自力歩行をしており、介助者もいない。一見すると、障害年金を請求したい本人とは思えない。しかし、症状を確認するうちに己の誤りに気付くこととなった。
人間らしい自立した生活を継続すること、最後の瞬間に怯えないこと、その2つを必死にいい聞かせているような生き様の方である。障害年金も自分が病人になってしまうようで本当は申請したくないが、金銭的に家族の負担を減らしたいがための、数年越しの決断だった。
後日分かったことだが、自力歩行をしていたものの、実は膝から下の感覚が全くなかったという。弊所内のソファーに横になるよう勧めても、横にならなかったのは、一度横になってしまうと、起き上がるのに半時間以上を要するからだった。
これ以上の詳細は控えるが、診断書と向き合っておられる先生方は、このあとの展開を既に想像されていることと思う。「頑張り屋さん」は障害認定でも介護認定でもその診断に若干首をかしげたくなることが起こることがある。この依頼人も同様で、医療機関によって診断書の内容は異なるものとなった。
周囲に迷惑をかけまいとする意志の強さが、「見た目」を変えている。人が人を診断するのだから、絶対評価は難しい。依頼人にとっても、主治医が自分の望むような診断をしてくれないのは寂しいものの、「あなたの症状は軽いのだ」といわれて安堵する側面もあり、一概にはいえない。
こんな時いつも思うのは、医学的判断と障害認定基準と生活維持とのはざまにある何かだ。そこにある矛盾を専門家として指摘し、制度改正につなげるのは我われ社労士なのだろう。先輩方からは人間力を養うよう、ずっといわれてきた。今後の社労士業務は、今まで以上に人間力を必要とするものばかりになりそうだ。デジタル化に若干嫌気が差していたが、社労士の本領発揮の時代が来るのかも知れない。
堀口社会保険労務士事務所 所長 堀口 沙里【千葉】
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