【新型コロナウイルスの企業対応・労務管理】第1節 行政上の措置の種類
以下の記事は、2009年10月に弊社より刊行された「新型インフルエンザ対応マニュアル」(絶版)をそのまま掲載しております。
新型インフルエンザを対象とした内容となっており、古い部分もございますが、新型コロナウィルスが流行する中、企業の労務管理の対応方法としてご参照いただければと存じます。
・第2節 企業の判断に基づく措置
・第3節 従業員への休業発令
・第4節 休業時の賃金支払義務
新型コロナウイルスに関する最新情報は、厚生労働省のWebサイトをご参照ください。
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)〔厚労省Webサイト〕
はじめに
WHO(世界保健機関)は新型インフルエンザのフェーズ分類を最高の6とし、世界的なまん延状況にあると宣言しています。日本国内でも、2009年夏季から流行期に入り、今後、さらに患者数が増大するおそれがあります。
事業主としては、国が発表した「基本的対処方針」、感染症法、労働関係法規等の規定を踏まえ、対策を講じなければいけません。当面、本格的なBCP(事業継続計画)の策定を検討していない中小・零細企業でも、次の諸点を確認しておくべきでしょう。
① 行政上の措置として、どのような命令等が下される可能性があるか。
② 行政サイドから事業停止等が要請されない場合でも、自主的にどのような対策を講じておくべきか。
③ 感染防止策として、従業員に休業を命じることは可能か。
④ 休業を命じた場合の賃金支払義務はどうなるか。
こうした基本事項を踏まえたうえで、事業への影響を最小限に抑えつつ、感染拡大の防止に努める必要があります。
1 新型インフルエンザとは?
(1)基本的対処方針の対象となる新型インフルエンザ
新型インフルエンザウイルスとは、鳥インフルエンザウイルスが遺伝子の変異によって、人から人へと効率よく感染するようになったもので、それが人に感染して起こる疾病が新型インフルエンザです(新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」)。
現在、世界・日本で流行しているのは、そのなかでも「A/H1N1」と名づけられたタイプで、次のような特徴があります(新型インフルエンザ対策本部「基本的対処方針」)。
1 感染力は強いが、多くの感染者は軽症のまま回復し、抗インフルエンザ薬の治療が有効であるなど、季節性インフルエンザと類似する点が多い。
2 季節性インフルエンザでは高齢者が重篤化する例が多いのに対し、今回の新型インフルエンザでは、基礎疾患(糖尿病、ぜん息等)を有する者を中心に重篤化し、一部死亡することが報告されている。
3 潜伏期間は1日から7日とされている。
「基本的対処方針」では、新型インフルエンザ全般ではなく、「A/H1N1」をターゲットとして対策を示しています。
pandemic〈パンデミック〉 WHO世界保健機関では、パンデミックインフルエンザ警報フェーズを6段階に分けて設定しています。パンデミックとは感染症が世界的に流行することで、2009年6月12日にフェーズ分類は最高の「6」に引上げられています。 警報フェーズの分類 |
(2)感染症法の定義による新型インフルエンザ
エイズやエボラ出血熱といった新しい感染症が発生し、航空機の発達により短期間のうちに日本に持ち込まれる恐れが高まっています。そうした感染症を取り巻く環境の変化に対応するため、平成11年に従来の伝染病予防法等に変わり、感染症対策を網羅的に規定する感染症法(感染症法の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が登場しました。
感染症法では、1~5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症という定義を設けています。
インフルエンザ関連は、次のとおり分類されています。
第2類感染症 | 鳥インフルエンザ(H5N1) |
第4類感染症 | 鳥インフルエンザ(H5N1を除く) |
第5類感染症 | インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ除く) |
新型インフルエンザ等感染症 | 新型インフルエンザ |
新型インフルエンザは、「新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあると認められるもの」と定義されています。
2 基本的対処方針等に基づく措置
(1)政府の定める対策
今回の新型インフルエンザ「A/H1N1」については、主に新型インフルエンザ対策本部による「基本的対処方針」に基づいて対策が講じられています。
それ以前に政府は「新型インフルエンザ対策行動計画」「新型インフルエンザ対策ガイドライン」を策定していましたが、基本的対処方針との関係については次のように解説されています。
「従来の行動計画・ガイドラインは、弱毒性ではあるが病原性の高いスペインかぜや強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1)に由来する新型インフルエンザも念頭に置きながら整理しています。しかし、今般のウイルスは軽症の方が多いという特徴を持ち、行動計画をそのまま適用するのではなく、地域の実情に応じた柔軟な対応を行っていくこととしています。」
(2)基本的対処指針に基づく措置
基本的対処指針では、事業者に対して次のような要請を行っています。
① 時差通勤、自転車通勤等を容認するなど従業員の感染機会を減らすための工夫を検討する。
② 事業自粛の要請を行わない。ただし、事業運営において感染機会を減らすための工夫を検討する。
③ 従業員の子ども等が通う保育施設等が臨時休業となった場合、当該従業員の勤務について配慮を行う。
これに対し、事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン(強毒性のあるウイルスも念頭において作成)では、「業種・業態によっては、感染拡大防止のため事業活動の自粛を要請される事業者がある」と述べています。
学校・保育施設の休業 会社(事業)の自粛要請が行われない一方で、子どもの通う学校・保育施設では休業(閉鎖)が実施されています。これは、厚生労働大臣が定める「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」のなかで、別に取扱い基準を定めることになっているからです。 ① 学校・保育施設等で患者が発生した場合は、都道府県等が必要に応じ臨時休業を要請 |
3 感染症法に基づく措置
感染症法では、新型インフルエンザについて主に次のような規定を設けています。
濃厚接触者 新型インフルエンザは、空気感染ではなく、主として飛沫感染・接触感染により伝播します。飛沫感染は咳やくしゃみによるものですが、飛沫は空気中で1~2メートル以内しか到達しないとされています。マスクをすれば、さらに危険度を低減できます。接触感染では、机、ドアノブ、スイッチ等が感染経路となり、小まめな清 掃が有効な対策となります。 事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインでは、感染拡大を防止するため、「濃厚接触者」に対する措置を定めるよう求めています。濃厚接触者の例は、次のとおりです。 ① 同居者――患者と同居する者 |