【自然災害時に知っておきたい企業の労務管理】第1節 労働時間管理(2)
以下の記事は、2011年6月に弊社より刊行された「災害時に知っておきたい労務管理の実務~震災に伴う休業・労働時間短縮・雇用調整~」(絶版)をそのまま掲載しております。
東日本大震災から9年。大規模な自然災害に対して、企業の労務管理はどのように行うべきか、改めてご確認いただければと存じます。
・第1節 労働時間管理(1)
・第1節 労働時間管理(2)
・第2節 雇用調整(1)
・第2節 雇用調整(2)
・第3節 行政による保護施策
4.勤務割の組替え
夏場の電力不足等に備え、行政サイドも、電力使用の分散化・平準化を企業に求めています。
具体的には、次のような対応が考えられます。
① 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ |
変更期間が短期であれば、就業規則上に「事業の必要により始業・終業時刻を繰り上げ・繰り下げることができる」「事業の必要により休日を振り替えることができる」等の規定により、対応も可能でしょう。
しかし、変更が長期にわたる場合、始業・終業時刻、休憩、休日等は就業規則の絶対的必要記載事項(労基法第89条)であるので、就業規則の変更・労基署への届出が必要になります(平23・5・13基発0513第1号「夏期の節電に向けた労使の取組への対応について」、参考資料55ページ参照)。④については年休の計画的付与制度(同第39条第6項)との併用、⑤については変形労働時間制の利用等も検討課題となります。
就業規則の変更
就業規則を変更する際には、過半数労組(ないときは過半数代表者)の意見を聴き、その意見書を添付したうえで、労基署へ届け出る必要があります(労基法第90条)。
変更といっても、期間を限っての実施なので、就業規則の本体を修正する必要はありません。就業規則の末尾に、附則等を付加するのが実務的な対応といえるでしょう。
◆就業規則の例
第○条 平成23年○月○日から同○月○日までの間、始業・終業時刻は第○条(原則の労働時間を定めた規定に対応する条文)の規定にかかわらず、次のとおりとする。 (略) |
始業・終業時刻の部分を、適宜、休日等に入れ替えて、必要な条文を作成します。
年休の計画的付与
使用者が、過半数労組(ないときは過半数代表者)と書面による協定を結ぶことにより、個々人が保有する残年休日数のうち5日を超える部分について、年休の計画的付与ができます(労基法第39条第6項)。労基署への届出は必要ありません。
通常の夏季休暇の前後期間を、年休の計画的付与日と定めることにより、休暇期間を延長することができます。
◆就業規則の例
第○条 労働者代表との書面の協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。 |
年休の計画的付与は今回の1回限りではなく、今後もなにかと使用する機会が発生しそうな条文です。ですから、附則ではなく、就業規則の本体に組み込んでおくと便利です。
◆労使協定の例
1 平成23年度の年次有給休暇のうち○日分については、以下の指定日に与えるものとする。 ○月○日から○月○日まで 2 年次有給休暇の日数から5日を差し引いた残日数が10日に満たない者については、その不足する日数の限度で、第1項に掲げる日に特別有給休暇を与える。 3 この協定の定めにかかわらず、業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は、労働者代表と協議のうえ、第1項に定める指定日を変更するものとする。 |
協定は、必要な時期に、都度、必要な内容で結び直します。
1年単位の変形労働時間制
使用者は、過半数労組(ないときは過半数代表者)と書面による協定を結ぶことにより、1年単位変形労働時間制を導入することができます(労基法第32条の4)。
1年単位変形労働時間制とは、1カ月を超え1年以内の期間を定め、その期間を平均して週40時間を超えない範囲で、1日8時間・1週40時間の範囲を超えて労働させることができる仕組みをいいます。
たとえば、7月から12月の6カ月の変形労働時間制を採れば、7月から9月の労働時間(出勤日)を少なく、10月から12月の労働時間(出勤日)を多く設定することも可能になります。
この制度を採用して実施するには、労基署への届出が必要です。なお、既存の協定を変更・改定する際には、所定書式(労働基準法第32条の4の変形労働時間制の節電対策のための特例の対象となる事業場であることの確認書)を添えて、労基署に提出する必要があります(平23・5・31基発0531第5号)。
◆就業規則の例
第○条 労働者代表と1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合、当該協定の適用を受ける労働者について、1週間の所定労働時間は、対象期間を平均して1週間当たり40時間を超えないものとする。 |
こちらも、附則ではなく、就業規則の本体に組み込んでおくと便利です。
◆労使協定の例
(勤務時間) (略) (起算日) (略) (有効期間) |
協定は、必要な時期に、都度、必要な内容で結び直します。
5.派遣・請負事業の取扱い
派遣という就労形態では、派遣元が雇用主となり、派遣先は指揮命令権を行使するに過ぎません。ですから、休業手当の支払い義務は、雇用主である派遣元のみが負っています。
派遣先が「使用者の責めに帰さない事由」により休業し、派遣就労を拒絶したとしても、自動的に派遣元が休業手当の支払いを免れるわけではありません。派遣元は、派遣先とも連携しつつ他の派遣就労先を探す等の対策を講じる必要があります。そうした「事業主として最大の努力を尽くしてなお避けることのできない休業」の場合に限り、例外的に休業手当の支払いを免れます。
派遣と異なり、業務請負の場合には、業務に必要な機械・資材等も注文主の現場に搬入しているので、注文主の事業場が天災地変で被害を受け、休業手当の支払い義務がないケースでは、「不可抗力」の主張が認められる可能性が高いでしょう。
派遣先による契約履行拒否(労務の受け入れ拒否)に関しては、一般論として、派遣元が休業手当の支払い義務を負います。派遣元は、契約不履行に関し、派遣先に対して一定の補償を求めるほかありません。派遣先・派遣元指針では契約の途中キャンセルに関する取扱いは明記されていますが、休業に関する規定は設けられていません。
しかし、派遣先の被害が僅少で、操業縮小のみで対応でき、結果として派遣契約の中断のみで対応可能だったとします。こうしたケースでは、先・元がよく話し合ったうえで、休業手当の支払いを折半負担する等の対策も考えられるでしょう。
派遣元事業主が震災の影響を受け、派遣労働者を休業させ、休業手当を支払った場合には、一般事業主と同様に雇用調整助成金の申請が可能です。雇用調整助成金制度および特例については、次の「6.雇用調整助成金の利用」を参照してください。