【ひのみやぐら】高齢者対策はハード面から
どの産業でも若い年代の労働力確保は喫緊の課題だが、建設業では技能継承の面から特に深刻だ。少子高齢化は、ますます拍車がかかることが予想されており、高齢者は貴重な戦力として、長く安心して働くことのできる職場環境づくりが重要といえる。
以前にも、この稿で指摘したが、高齢者の安全衛生確保はまずはハード面から始めるべきである(2015年11月15日号参照)。高齢者の労働災害の特徴は、身体機能の低下からくるものがほとんどだ。足が上がらなくなって階段でつまずいて転倒する、床にコードが這ってあっても、視力の低下で気付かずに足が引っかかり転ぶなど、若いころには何でもなかった行為が年齢を重ねることでリスクと化してしまう。
年をとることで「思い込み」「慣れ」「油断」などといった高齢者特有のヒューマンエラーが原因による労働災害が起こらないわけではないが、若年者にも「無知・未経験」「悪ふざけなど故意による不安全行動」などにより事故に発展することもある。つまり、不注意や過失というのは世代別に特徴はあっても、人間である限り犯してしまうものなのだ。
労働者の注意力を高めるために教育、訓練を行えばよいという意見があるかもしれないが、長年の経験を頼りにしてきた高齢者にとって、その効果が高いといえるかどうか疑わしい。そもそも労働者の注意力に頼る労働災害防止対策は、いかがなものか。やはり高齢者の安全衛生対策は、ハード面の着手が最優先といえる。そのうえで、管理者は高齢者のヒューマンエラーの特性を踏まえておきたい。
今号特集Ⅱでは、忠武建基の安全衛生対策を紹介している。複数の人力で行っていたH鋼リング取り付け作業の省力化は高齢者の経験、アイデアから生まれた。また、保護具、装備品の改善、軽量化を図った。さらに健康診断の年2回実施やライフプランの相談会を開催することで、安心して働くことのできる職場づくりを実現している。
働く意欲を持ち、技能の高い高齢者を眠らせておくのは社会にとっても大きな損失といえる。安全衛生対策も少子高齢化という時代に対応することが重要だ。