【主張】伸び悩む男性正社員賃金
厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査によると、男性社員の賃金水準が相対的に下落傾向にあることが明白である(関連記事=厚労省 令和元年/賃構調査(概況) フルタイム男性 ピークは42.4万円に 中高年層でダウン)。その分、女性や非正規労働者の賃金水準が上昇している。男女平等や同一労働同一賃金を意識する余り男性社員の賃金水準を下げて総人件費コストを抑えようとする動きなら、日本産業の将来を危うくする。基幹労働者である男性社員の賃金水準に手を付けるべきではない。
同一労働同一賃金の推進が課題となっていた当初、正規と非正規労働者の賃金格差を縮小するために、正規労働者の賃金水準を下げる企業が続出する可能性が指摘されていた。本来なら総人件費コストを増加させて、非正規労働者に配分すべきである。同一労働同一賃金のために、正規労働者の賃金水準を下げるのは倒錯というほかない。
最新の賃金構造基本統計調査をみると、男性社員の賃金水準が長期間にわたって下落か横ばいで推移している。男性社員の平均は33万8000円で、ピークは平成13年の34万1000円である。これに対して女性は25万1000円で、過去最高となっている。
雇用形態別でみると、男性正社員は平均35万1500円で5年前と比較すると約8000円増加した一方、男性非正規社員は同期間に約1万3000円増加している。女性非正規社員も約1万円増加した。こうした流れによって、賃金格差は徐々に埋まりつつある。
賃金格差の縮小は良いとしても、実態は男性正社員の賃金水準を抑えて原資を絞り出しているといわざるを得ない。厚労省は当初から、同一労働同一賃金を達成するために正社員の賃金を引き下げる動きを警戒し、労働条件の不利益変更による法違反の可能性を訴えていた。確かに法違反ではあるが、あくまで民事訴訟となった場合に限られる。多くのケースでは、労働者側が合意したか、または黙認であろう。
男性正社員が最も高水準の賃金にあることは、それだけ業績貢献度が高いということだ。基幹労働者層のモラール低下につながったら、日本産業の将来が見通せなくなる。