【主張】後退するグローバリズム

2020.05.14 【主張】
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 新型コロナウイルス感染症の拡大で、経済グローバリズムが本格的に見直され始めている。感染症を契機として日本のサプライチェーンの脆弱性が露呈した。事態の収束後を見据え、少なくても海外の特定地域への産業依存を低下させていく必要がある。日本国内における雇用機会増大にも有効だろう。

 現在の資本主義は、地球を一つの共同体として金融・生産活動を行っている。物・人・金は、国境を越えて移動し地球全体で分業体制が形成された。移動や通信技術が高度化され、経済合理性を追求すれば、分業へのシフトは一面で当然の流れといえよう。

 しかし、近年、行き過ぎたグローバリズムを否定する動きが全世界で活発化している。「アメリカ・ファースト」を訴えるトランプ大統領の出現が象徴的だ。イギリスのEU(欧州共同体)離脱も同様である。いずれも、グローバリズムを一定程度拒否し、自国内における雇用機会確保を重要な課題に据えた。

 日本産業も地球規模の分業体制に組み込まれている。とくに、バブル経済崩壊後の厳しい円高で、産業の多くは中国を進出先とする海外移転を開始した。海外移転によって重大な問題として浮上したのが、雇用の空洞化だった。

 新型コロナウイルス感染症は、経済グローバリズムの大きな欠陥を見せ付けた。重要な製品・素材あるいは国民が健康な生活を営む上で不可欠な製品の供給が滞ってしまった。国境を越えた人の大量往来が感染症を広め、世界的危機を招来した。

 日本政府は、経済グローバリズムを主導する立場にあると自称するが、世界の主要国の動きとは逆行している。感染症の拡大によるサプライチェーンの寸断は、国民生活を危機に晒した。食品の多くを中国などに依存している現状から考えれば、今後、食糧危機に襲われる可能性も否定できない。これまでのような積極的なグローバル化の時代は終焉したといえる。

 令和2年度補正予算では、国内への生産拠点回帰を促進させる新事業がスタートした。感染症の拡大が気付かせてくれた重い現実である。

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令和2年5月18日第3257号2面 掲載
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