「孫氏」に学ぶ社長の条件/志賀社会保険労務士事務所 代表 志賀 直樹
「孫子」は春秋時代の呉に仕えた、孫武という軍師の作とされる兵法書である。その内容は、人間に対する深い洞察、広い視野に基づいており、軍事のみならず経営戦略にも大変役立つ。2500年以上たった現在でもリーダー必読の書とされ、多くの指導者が「孫子」に学び、実務に活かして成功してきた。
その中で、指導者の資質について述べた一節があるので紹介する。「将とは、智、信、仁、勇、厳なり」という言葉である。すなわち、リーダーに必要な条件は、洞察力、約束を守る、思いやり、決断力、信賞必罰の5つだというのだ。以下、社会保険労務士として多くの経営者と接してきた自分の経験を踏まえて、順に検討していきたい。
まず、智(洞察力)。先を見通す力、物事の本質を見抜く力。これはほとんどの社長が持っている。とくに創業時にはこの能力を発揮したはずだ。長く経営を続ける中でも、常に環境の変化を予測し続け、打つ手を判断できるかが大切だろう。
次に、信(約束を守る)。雇用契約は労使の双務契約であり、従業員は社長が約束を守る人かどうかを良くみているものだ。会社が平気で法令違反をしていたらどうなるか。罰則の適用があるか否かの問題ではない。コンプライアンスが必須である本当の理由はここにある。
そして、仁(思いやり)。これが欠けている社長はまれである。少なくとも外形上は備えている。ただし、それが内面からにじみ出たものか、うわべを飾ったものなのかを、やはり従業員は鋭く見抜く。下から上は良くみえるのだ。
さらに、勇(決断力)。社長にとって最も必要な能力を1つだけ問われたら、私はこの決断力を挙げる。たとえ間違った決断でも、しないよりはましだ。間違っていても、改めることはできる。ちなみに、活気ある会社の社長ほど決断は早い。理由は簡単。忙しいからだ。
最後に厳(信賞必罰)。職場ではルールが明確でなくてはならない。何をめざしてどんな行動をとるべきか。評価の基準はどうなのか。就業規則の整備等は当然必要だが、常にルールに照らして粛々と処遇すべきである。不公平は従業員のモチベーションを著しく損なう。
志賀社会保険労務士事務所 代表 志賀 直樹【東京】
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