マイカー通勤・業務使用に関するリスクマネジメントのポイント/弁護士 古屋 文和
1 はじめに
私は、日々、経営者の方々からご相談を受けて、労務を中心に、経営に関するリスクマネジメントを行っています。
リスクマネジメントの第一歩として、私が必ず確認をするポイントがあります。それは、マイカー通勤及び業務使用についてのリスクマネジメントです。
実際に経営者の方々に確認してみると、意外にも、入社時に免許証や保険証券を確認したきり、その後はチェックができていないことが多いです。
2 マイカー通勤・業務使用から生じる法的リスク
〇 マイカー通勤について
例えば、従業員がマイカー通勤中に従業員の不注意(スマートフォン操作など)で交通事故を起こした場合、事故の相手方から会社に対して、民法715条1項(使用者責任)や自賠法3条(運行供用者責任)を根拠に、損害賠償請求がなされることがあります。
損害賠償の金額は、事故の態様や相手の怪我の程度などによりますが、数千万円以上になることも珍しくありません。
マイカー通勤中の事故について会社の責任が問われた裁判例をみると、会社の責任の有無については、事情により判断が分かれています。例えば、使用者がマイカー通勤を認め、通勤手当を支給していたケースで、使用者に民法715条1項の使用者責任を認めた例(福岡地裁飯塚支判平10・8・5 判タ1015号207頁)があります。そこで、会社としては、マイカー通勤中の事故について、会社が責任を負う可能性があることを前提に対応すべきです。
〇 マイカー業務使用について
業務使用中の事故については、マイカーの業務使用を会社が禁止していたにもかかわらず、従業員が便宜のために無断でマイカーを業務に使用したなどの事情がない限り、会社が責任を負う可能性が高いです(参考判例として、最判昭52・9・22 判タ354号253頁)。
3 マイカー通勤・業務使用に関する労務管理の方法
会社がマイカー通勤・業務使用中の交通事故から生じる損害賠償リスクを避けるためには、以下の手順で対応することが効果的です。
① マイカー通勤・業務使用を許可するかの決定 |
① マイカー通勤・業務使用を許可するかの決定
まず、マイカー(自動車・二輪車・自転車)を通勤・業務に使用することを許可するか決定します。
使用を許可しない(禁止する)場合でも、会社がマイカー使用を黙認している場合には会社に責任が生じることがあるため、実際に従業員がマイカーを使用していないことを確認する必要があります。
使用を許可する場合は、以下の②から⑤の手順に沿って対応していきます。
② マイカー使用の許可や要件を定めた規程の作成及び見直し
マイカー使用に関する規程では、マイカーの範囲(例えば、自転車を含めるか)、許可要件及び許可の更新等について定めてください。また、事故時の対応手順(相手の救護、110番通報、事故防止策など)も定めておきましょう。
③ 事故予防のための安全教育等
定期的に安全運転研修を行うことが望ましいです。その他、例えば、持病のある従業員が服薬をした結果、眠くなるなどして事故につながる危険があります。そこで、服薬をしている従業員に服薬の頻度や影響を確認しておき、日頃から健康状態に注意しておくのが望ましいです。必要に応じて、服薬の影響について、主治医の意見書を提出してもらうことも検討します。