【主張】恒常的残業リスク高まる
東京地裁は、アクサ生命保険事件(令2・6・10判決)で、労働者に月40時間程度の残業を行わせていた使用者を安全配慮義務違反と認定し慰謝料支払いを命じた(本紙7月13日号3面に詳細)。訴えた労働者は、うつ病など具体的疾患を発症していない。
これまで、脳・心疾患などが現実として発症し、原因となった過重労働に対する安全配慮義務違反が問われるケースが一般的だったが、様相が明らかに変化している。具体的疾患とは関係なく一定条件下での長時間労働そのものを安全配慮義務違反などと認定する傾向が強まっている。企業としては、細心の注意をもって長時間労働抑制に努める必要が生じている。
アクサ生命保険事件では、営業幹部社員に月30~50時間程度の残業を1年超行わせていたことが問われた。東京地裁は、労働者に心身の不調を来す恐れがある長時間残業を行わせたとして、安全配慮義務違反と認定した。
厚生労働省では、残業時間が月100時間または複数月平均80時間を超える場合を過労死ラインとしている。それ以下では、おおむね月45時間を超えて長くなる場合には、業務と脳・心疾患との関連性が徐々に強まるとしている。
昨年10月の長崎地裁判決では、労働者の退職前2年間の残業がおおむね月100時間を超え、最長で160時間を超える月があったという事案に対し、「人格的利益の侵害」で不法行為を構成すると判断、慰謝料30万円の支払いを命じた(本紙令和元年10月28日号5面に詳細)。やはり、労働者に具体的疾患は発症していなかったが、心身の不調を来す危険のある長時間労働に従事させたことが問われている。
平成28年にも東京地裁が同種判決を下していた。1年余にわたりおおむね月80時間またはそれ以上の残業を行わせたことに対し、労働者を心身の不調を来す危険のある長時間労働に就かせたとして慰謝料が認められた。
過労死ラインに達せず、具体的疾患が発症しなくても、脳・心疾患と業務との関連性が徐々に高まるという月45時間程度の残業を恒常的に行わせていると、労務管理上のリスクが高まると考えて良い。