仕事と介護の「新常態」へ/プラスパートナー社労士事務所 所長 橋本 隆
昨年、4年にわたる闘病生活の末、最愛の母を癌で亡くした。誰もが必ず通る道とはいえ、この世の終わりくらいに寂しい気持ちになる。
癌になっても初期の段階では、痛みもほとんどなく元気な状態が続く。それでも、本人と家族は多くの時間を癌に費やすことになる。癌には、手術、放射線、重粒子線、免疫療法、漢方など、代替療法も含めると様ざまな治療方法がある。母の場合、手術が難しかったため、何軒もの病院を訪ねて治療方法を決めた。入院や通院時には必ず付き添い、毎週末に神奈川の自宅から東京の実家へ帰省した。末期の段階では同居もし、最後のひと月は、緩和ケアのホスピス病棟に毎日通った。もちろん悔いも残るが、その時の状況でできる限り母に寄り添えたことで、自分の心も癒されている。
何よりも幸運だったのは、私が仕事と介護を両立できる環境にあったことだ。業務を効率化したこともあるが、事務所スタッフのフォローによるところが大きい。皆の支えで最後のお別れができたという感謝の気持ちは、生涯忘れることはない。
ところで、厚生労働省が発表している介護保険事業報告によると、令和2年3月の要介護(要支援)認定者数は、668万人となっている。平成21年度末(平成22年3月末)では485万人だった。10年間で183万人も増加している。団塊の世代が数年で75歳に達するため、今後も介護認定者数が増加していくのは必至だ。
一方、総務省が発表している就業構造基本調査の平成29年10月調査では、介護をしている雇用者299.9万人に対して介護休業を取得した人はわずか3.5万人の1.2%となっている。平成24年の同調査では、介護をしている雇用者239.9万人に対して介護休業を取得した人は7.6万人の3.2%だった。平成29年1月の法改正により介護休業が取得しやすくなったが、2%も減少している。
取得率上昇のためには、経営者や人事担当者が介護休業制度の重要性を理解し、アンケートの実施などにより実態を把握することが重要である。中小事業主の場合、介護休業や短時間勤務制度などの利用で支給される両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)もあるので活用していただきたい。
働き方改革関連法が順次施行されるなか、新型コロナウイルス感染症の影響で働き方の見直しを余儀なくされている。仕事と介護を両立できるニューノーマル(新常態)をめざす絶好の機会ではないだろうか。
プラスパートナー社労士事務所 所長 橋本 隆【神奈川】
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