法的弱者の救済を/BSP社会保険労務士法人 代表社員 岸本 貴久
この数カ月は、本来の顧問業務とともに、新型コロナ関連の助成金業務に忙殺された日々であった。
私は、新型コロナによる人的・経済的被害は、半分は天災、半分は人災と思っている。2月後半、顧問先の食品卸売を業とする中小企業社長からの、「コロナ禍で資金ショートする」という悲鳴が、社労士としてのコロナ対応への号砲となった。
人命尊重と景気対策。二律背反する問題ではない。しかし、新型コロナの恐るべき猛威は、憲法29条3項、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」という財産権の保障をもあざ笑うかのように侵食した。政府、東京都のあらゆる施策も、後手後手に回らざるを得なかった。日本経済は大打撃を受けた。
3~5月はほぼすべての顧問先から、雇用調整助成金申請のサポート依頼が来た。スポットは受けないことにしていたが、大企業をはじめ、多くの企業のサポートをすることにもなった。なにせ緊急事態である。
その中にはいわゆる「夜の街」の企業も多くあった。「ナイトクラブ」やその出入り業者である。今までは、どのような理屈か、差別か、風営法対象企業は全助成金の対象から排除されてきた。
休業させ、給料も100%支払っているが、労働保険に加入していない、そんな企業が多くあった。私の判断は迷いなく、さかのぼって労働保険に加入させ、雇用調整助成金の対象にすること。これで多くの会社、労働者が救われた。
実際、多くの中小零細企業は労務帳簿を備えていない。また労働保険への加入すら怠っている。もちろん違法状態は許されない。ただ、会社の倒産、労働者の失業が大量発生するこの緊急事態、さかのぼって帳簿を作成し、労働保険に加入するのは仕方がないことではないだろうか。
提出先の東京労働局の回答は「YES」であった。さすがにこの事態では当然であろう。東京都社会保険労務士会としては4人体制でのホットラインを立ち上げ、対策をとった。ただ、このホットラインの存在が、はたしてどれだけの零細企業の社長の目に留まっただろうか。社労士倫理を声高に唱える社会保険労務士会として、より実効性の高い措置はとれなかっただろうか。
非常時に、法的弱者に法的救済が行われなければ士業としての面目が立たない。それが社労士倫理であり、人としての在り方だと思う。形式上の倫理を唱えても、腹の足しにもならない。社会保険労務士全体の在り方を問い直すべき機会でもある。
BSP社会保険労務士法人 代表社員 岸本 貴久【東京】
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