退職後は割増請求ムリか 「労使関係消滅」と拒否 労基法では労働者を保護
- Q
会社から「能力不足」を理由に退職勧奨を受け、やむなく退職しました。後日、「時間外割増の支払いについて疑問があるので、説明してほしい」旨求めましたが、「合意退職により、使用者・労働者という関係が消滅しているので、応じる義務がない」という回答です。労働者という身分を喪失すれば、労基法上の保護を受けられなくなるのでしょうか。【岐阜・I生】
- A
-
在職中に権利義務が発生
使用者が割増賃金を支払わない場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法第119条第1項)。賃金(退職金を除く)の消滅時効は、2年と定められています(同第115条)。
消滅時効について、退職により権利を失うという規定は存在しません。仮にそうであるとすれば、退職金等に関する時効規定は意味を持たなくなります。最近、頻発している未払い賃金に関する紛争は、大部分が退職後の事案です。
会社側担当者が意図的に曲解している可能性もありますが、労基法の対象となる「労働者」の定義を改めて確認しておきましょう。
労働者とは、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定されています(労基法第9条)。本稿では、①事業に使用され、②賃金を支払われるという要件のうち、②に関し検討します。
労働者の定義は法律により異なり、例えば、労組法では「失業者も労働者に含まれる」と解されています。一方、労基法は「『現に』働く職場における労働条件の規制を目的とする法律であり、『労働者』とは適用事業に現に使用される者」をいうという結論になります(労組法コンメンタール)。
このため、労基法でいう「労働条件」に関する規定は、「雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制限する趣旨でない」という見解が有力です(三菱樹脂事件、最判昭48・12・12)。
担当者は、雇入れ前の労働者に労基法の適用がないなら、「退職後の労働者についても、当社の与(あずか)り知らないこと」と考えるかもしれません。
しかし、賃金に関する権利義務は「現に使用されている期間」に発生したものですから、退職後も労基法の適用対象になります。
※内容は掲載当時のものです。法改正等により内容に変更が生じている場合がございます。