自社株も賃金扱いか 「日本版イソップ」に注目 退職金を現物給付で?
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最近、従業員に退職金ではなく、自社株を支給する仕組み(日本版イソップ)が注目を集めています。一種の現物給付のようにも思えますが、法律的にはどう考えればよいのでしょうか。そもそも、自社株の給付は「賃金」に該当するのでしょうか。【東京・H社】
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現金化の条件明確なら
米国で普及している「イソップ」とは、「Employee Stock Ownership Plan」の略です。日本版は、それを模して制度設計されたものです。
基本的には、従業員の勤続・貢献等をポイント化して積み立て、退職時に株式に換算して給付するスタイルを採ります。
「賃金」に該当するか否かは、法律により異なります。例えば、労働保険上、「退職金は保険料算定の基礎となる賃金ではない」(昭25・2・16基発第127号)という解釈で、株式を支給する場合も同様と考えられます。本欄では、労基法上の扱いを採り上げます。
自社株を報償目的で使用するスキームとしては、「ストック・オプション」が有名ですが、「労基法第11条の賃金に該当しない」という解釈が示されています(平9・6・1基発第412号)。ストック・オプションでは、新株予約権を行使する際に自己資金を用い、売上金額との差額が利益となります。
一方、退職時の自社株給付については、退職金の代わりに、ポイント相当の株式(または換金後の現金)が給付されます。労基法上、「労使間であらかじめ支給条件が明確に定められ、その支給が法律上使用者の義務とされている退職金は賃金」に該当します(昭22・9・13発基第17号)。
自社株給付方式についても、ポイントの積算方法・株式への換算方式が具体的に定められていれば、支給金額(株式の現金換算額)が一義的に定まります。
株式支給について「労基法第24条第1項の現物給与禁止に反する」とした判例(シャード事件、東京地判昭53・2・23)もありますが、退職時に現金に換金して給付すれば、通貨払いの原則に反しません。
本人が「将来的な株式の値上がり」を期待し、退職金をその場で自社株に交換するオプションを行使する(つまり、株の形で受取)というなら、それは賃金支払いに対する規制領域からは外れる問題です。
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