東京貨物社事件(浦和地決平9・1・27) 3年間同業に就職しない等の競業禁止特約は? 公序良俗違反により無効
対象職種・期間や代償措置等で判断
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、展示会場の賃貸等いわゆるイベントの設営を中心にこれに関連する業務一切を行っている株式会社で、Aは昭和50年に採用され、東京営業部部長を最後に平成7年5月10日退職、Bは昭和48年に採用され、東京営業部第3課長を最後に平成7年3月10日退職した。
C会社は、Aを代表取締役に平成7年5月15日設立された株式会社で、同年11月にAは取締役を辞任し、代わってFが代表取締役に就任している。
AとBは、いずれも、退職に際し、甲会社の用意した以下の文言の「退職確認書」と題する書面に署名捺印した。
「私儀 この度 一身上の都合により 退職致したくお届け致します。
なお、円満に退職するため、退職後においても貴社の機密漏洩はもちろんのこと、就業規則第45条第7項に則り、退職後3年間は同業他社に就職すること、および個人あるいは会社として同業を営むことは一切致しません。また、貴社の事業に関する書類の一切を持ち出すこと無く返還致します。
万一、機密文書等の持ち出し、または同業の事業に従事し貴社にいささかなりとも不利益や損害を与える恐れがある場合は、貴社に対し退職金の返還はもちろんのこと如何なる損害賠償責任を負う事、またその行為の中止を請求されても一切異議を申して立てない事をここに誓約致します」。
甲会社は、退職の時期とC会社の設立の時期が近接していることおよび甲会社と同一種類の業務を行う意思を既に強固に有していること等から、右の退職確認書に含まれる競業禁止特約に反する背信性は明らかであるとして、AおよびBに対して、右の競業禁止特約を根拠として、甲会社と競業関係にたつ業務の差止めを、C会社に対しては、AおよびBに対する差止請求権の存在を前提として法人格否認の法理又は債権侵害にもとづく妨害排除を求めて仮処分を申請した。
原決定は、平成7年9月19日右の仮処分を認可したが、A、BおよびCは、原決定に対して異議の申立てをした。本決定は、異議申立事件について判断したものである。
決定のポイント
退職確認書に記載された競業禁止特約が公序良俗違反といえるか。本決定は…
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