東京セクハラ(M商事)事件(東京地判平11・3・12) セクハラを“個人的争い”と被害者にも退職求める 解雇権の濫用に当たり無効
適正といえない喧嘩両成敗的な対応
筆者:弁護士 中山 慈夫
事案の概要
本件は、セクハラ発生後の会社の対応が不法行為とされた事案である。
会社の従業員であったXは、上司である総務部長兼経理部長Yから「ホテルへ行こう」と繰り返し誘われたため、そのことを会社に訴えたが、会社代表者から個人的な問題であり当事者同士で解決するように言われたので、弁護士に解決を依頼し、Yとの間で、YがXに陳謝し、慰謝料30万円を支払うこと等を内容とする示談をした。Xは、右示談後、Yが会社代表者にXを解雇するよう仕向けているものと受け止め、これに憤って職場で示談書をコピーし他の従業員に配布しようとし、これに気付いたYとの間で言い争いになった。会社代表者は、XとYとが私的ないさかいを蒸し返して職場に悪影響を及ぼしたことを理由に、X及びYに対し、一緒に依願退職するよう求めたが、Xは退職金を受領したものの退職届を出さなかった。しかし会社代表者は従業員の前でXが依願退職することになったと告げたため、Xは勤務の継続を断念し、X・会社間の雇用契約は終了した。
Xは、会社代表者に違法に解雇されたとして、会社に対し不法行為による損害賠償金約560万円を請求した。
判決のポイント
会社代表者は、Xに対し、本来なら懲戒解雇であるとまで告げた上で、依願退職の形で辞めるよう求め、Xの後任者を採用するとともに他の従業員に対しXが退職することになったと述べて、Xが勤務を継続することを事実上不能にしており、他方、Xは、右の事情から勤務を継続することができず、解雇の効力を承認せざるを得ないと判断し、退職金を受領したものの…
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