東京海上火災保険・海上ビル診療所事件(東京高判平10・2・26) 定期健診での異常見落としに損害賠償の請求 会社に賠償の責任はない
安全配慮義務違反とはならない
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
A社は、自社の本社ビル内に本店診療所を設置し、嘱託医師等を常駐させて社員の診療等を実施していた。B診療所は、医療法人財団で、昭和62年1月からA社の本社ビル内で診療を行っており、A社は、その時点から定期健康診断をB診療所に委嘱していた。
A社の従業員であるPは、昭和61年9月本店診療所で定期健康診断を受診したが、C医師は胸部レントゲン写真を読影して「異常なし」と診断した。
Pは、昭和62年6月B診療所で定期健康診断を受診し、そのレントゲン写真をD医師が読影した。また、Pは、昭和62年7月、6月中旬ころから咳および痰が出て、痰の一部に血が混じるなどと訴え、D医師は胸部レントゲン撮影を行い、その写真を読影した。
Pは、昭和62年8月E大学病院で受診し、同月以降入院、化学療法の治療を受けるなどした後、同年11月肺癌による呼吸不全によって死亡した。
Pの遺族は、肺癌に対する処置が手遅れになったのは、会社の定期健康診断で異常を見落とした医師らの過失であり、A社には安全配慮義務違反および使用者責任があり、B診療所にも使用者責任があるとして、医師とA社に対して損害賠償を求めた。
第一審東京地裁平7・11・30判決は、医師の過失および会社の安全配慮義務違反をいずれも認めず、Pの遺族の請求を棄却した。
判決のポイント
控訴人らは、定期健康診断におけるレントゲン写真の読影医の注意義務の水準としては、一般的な臨床医ではなく、レントゲン写真読影専門医を基準とすべきであり、そうでないとしても、被控訴人Cは、レントゲン写真読影専門医であったから、少なくとも本件ではレントゲン写真読影専門医を基準とすべきであるところ、これを基準とすれば、本件レントゲン写真について、異常陰影の存在を指摘することは十分可能であったもので、このことは……各医師の意見からも明らかであると主張する。…
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