ダイエー事件(大阪地判平10・1・28) 出向先で10万円着服した社員を懲戒解雇に 背信性強く苛酷ではない
秩序維持への悪影響の度合いで判断
筆者:弁護士 山田 靖典(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、昭和47年4月、大型スーパーマーケット等を経営するY社に入社し、平成5年9月、Y社の関連会社で総合警備保障等を業とするA社に出向、西日本統括本部業務次長として従事していた。平成7年1月17日、阪神・淡路大震災発生に伴い、A社は対策本部を設置し、Xは、右対策本部総合事務局の責任者の1人となった。
Xは、同月22日、A社の東日本統括本部からの応援者約20人を接待し、同月23日、その夕食代を清算するに当たり、領収書の金額中10万円の単位の「1」を「2」に書き換え、本来、右領収金額が16万4368円であるのに、経費請求申請書に改竄後の金額である26万4368円と記入し、XがあらかじめA社から仮払金として預かっていた40万円から10万円を水増し清算して着服した(以下「本件着服」という)。
Y社は、平成7年8月10日、Xの本件着服行為がY社就業規則61条11号所定の懲戒事由(職務または権限を利用して不正な手段により自己または他人の利益をむさぼったとき」)に該当するとして、Xを同日付けで懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という)する旨をXに通知した。
これに対し、Xは、本件着服による被害金額が10万円にすぎず、不正行為も1回限りの偶発的行為であり、本件着服発覚後の同年2月8日に右10万円を返還していること、阪神・淡路大震災後の過酷な労働条件で心身が疲弊したときの行為であって、本件着服は、就業規則61条11号には該当せず、本件懲戒解雇が無効であるとの確認を求めて提訴した。
判決のポイント
Y社は、大型スーパーマーケットの経営等を目的とする株式会社であるから、会社の金銭の着服は、それ自体、会社と従業員との間の労働契約の基礎となる信頼関係を破壊させるに充分なほど背信性が高い行為であるというべきところ、Xが、Y社から出向してY社の関連会社であるA社の西日本統括本部業務次長という要職に就いていたことを考えると、本件着服の背信性は一層高いといわざるを得ない。また、大型スーパーマーケットは、…
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