川崎製鉄事件(岡山地倉敷支判平10・2・23) 長時間労働からうつ病に罹患し自殺、損害賠償は? 会社に安全配慮義務違反
日常の時間管理 健康管理が重要
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、被告の水島製鉄所条鋼工程課掛長であったAが、同製鉄所本館ビル6階屋上から飛び降り自殺したことにつき、Aの妻子が、自殺の原因は残業や休日出勤等の長時間労働によるものであるとして、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めたものである。
判決のポイント
一般私法上の雇用契約においては、使用者は労働者が提供する労務に関し指揮監督の権能を有しており、右権能に基づき労働者を所定の職場に配置し所定労働を課すものであるから、使用者としては指揮監督に付随する信義則上の義務として、労働者の安全を配慮すべき義務があり、本件では被告には雇い主として、その社員であるAに対し同人の労働時間及び労働状況を把握し、同人が過剰な長時間労働によりその健康を害されないよう配慮すべき安全配慮義務を負っていたものというべきところ、Aは前記のとおり、社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した長時間労働をしていたものである。
そして、Aの部下のBは、Aについて、平成3年3、4月頃から、顔色が悪く、煙草の量も増え、物忘れがひどくなり、疲れていると感じ、平成3年春頃、Aから寝汗をかくようになったと聞いていたが、他のC、D、上司のE課長はAについて顔色が変わったとは感じておらず、E課長は、Aの会社での態度に特別変わった点や異常な点については気付かなかったというのであるが、前記認定のとおり、被告においては長時間残業と休日出勤が常態化しており、Aについても同様であることは、上司であるEは把握していたはずであるところ、平成3年春頃、Aが川鉄病院から帰ってきた時、Eは、Aが疲れているように感じて、A担当の仕事を引き受けようかと言ったが、Aがこの申出を断るとそれ以上の措置は採らなかったこと、更にAの業務上の課題について相談を受けながら単なる指導に止まり、Aの業務上の負荷ないし長時間労働を減少させるための具体的方策を採らなかったこと、Eは午後7時から9時の間に帰るため、以後のAの残業については把握する上司もなく放置されていたこと、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら