新日本証券事件(東京地判平10・9・25) 米国留学した者が自己都合で退職、費用の返還は? 労基法16条違反で請求棄却
留学の主旨が業務か否かで分かれる
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
X社に勤務するYは、X社の留学規程に基づき92年1月2日から93年9月28日までの間、アメリカのボストン大学経営学部大学院に留学して、経営学修士号(MBA)を取得し、帰国したが、97年3月20日付で退職した。X社は、同社の就業規則に基づき定めている留学規程では、留学した後5年以内に自己都合により退職した場合は留学費用を返還すべきことを定めており、また、X社とYとの間で留学費用返還の合意がされていたとして、留学終了後約4年で退職したYに対し、留学費用合計542万8301円を返還するよう請求した。
判決のポイント
留学規程の法的性質について
留学規程は、使用者が就業規則の形式により労働条件の一部を定めるものであり、法的性質は就業規則に当たるということができる。就業規則の法的規範性を肯定するには、使用者が労働条件を定型的に定める就業規則を作成し、その内容が合理的なものであることを要する他、その就業規則が周知性を備えることを要するものと解するのが相当である。
X社は、留学規程については、従業員に配布せず、留学に関心があり、又は留学の決定した少数の従業員に対してのみ、その内容を知らせるにとどめていたものではあるが、適用を受けるべき労働者が一部の者にとどまることからすると、このような方法でも留学規程が周知性を備えていたことを肯定することができる。
留学規程の費用返還と労働基準法16条
留学規程によれば、海外留学を職場外研修の一つに位置付けており、留学の応募自体は従業員の自発的な意思に委ねられているものの、一旦留学が決定されれば、X社が海外に留学派遣を命じ、専攻学科もX社の関連のある学科を専攻するよう定め、留学期間中の待遇についても勤務している場合に準じて定めている。従って、本規程は従業員に対し、…
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