幸福銀行事件(大阪地判平10・4・13) 訂正変更条項のある企業退職年金の引き下げは? 合理性、必要性あればOK ★
恩恵給付的性格のものなら問題ない
筆者:弁護士 安西 愈
事案の概要
銀行が、従前退職者に支給していた退職年金の額を減額したのに対し、退職者及びその相続人である原告らが、右退職年金の額の一方的な減額は許されないとして、被告に対し、従前支給に係る退職年金額を基準に、未払分ないし将来分の支払いを求めた事案である。
被告の退職金規定には、退職一時金のほかに、勤続20年以上の退職者が満60歳に達したときから毎月、退職年金(終身)が支給されることとされ、この退職年金は無拠出制であった。
退職年金の支給を開始する際には、個別に「年金通知書」を交付し、その書面には「当行退職年金規定により次の通り年金を支給します」との記載の下に支給額(規定にない3倍程度の額)が記されていた。また、裏面には「経済情勢及び社会保障制度などの著しい変動、又は銀行の都合により之を改訂することがあります」と印刷されていた(本件訂正変更条項)。
本件の争点は、被告における退職年金の法的性質、原告ら主張の額の退職年金を支給する旨の合意または労使慣行の成否および本件訂正変更条項の有効性である。
判決のポイント
被告の退職年金(ただし、規定額の範囲内に限る)は、退職金規定に根拠を有し、労働契約上その支払いが義務づけられるものではあるが、被告においては、退職年金と併せて退職一時金も支給され、その額は、他の同業、同規模の会社と比較して特に低額ではなかったこと、退職年金の支給期間が終身とされているうえに、年金受給中に死亡した退職者の配偶者にもその半額が支給されるものとされていること等を勘案すれば、被告の退職年金は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものであるというべきである。…
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