ホーヤ事件(大阪地判平9・10・31) 早期退職優遇制度による加算金の発生要件は? 一律でなければ個別合意
「会社が認めた者」とする規定が有効
筆者:弁護士 加茂 善仁(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、昭和52年、Y会社に入社した。Y会社は、業績悪化に対処するため、人員削減の一環としてキャリア選択制度を導入することとした。制度の内容は、平成6年及び7年度の2年間に限り、45歳以上の社員で早期退職する者に対し、退職後の進路選択に応じて種々の優遇措置を講ずるものであるが、その中で、退職して自営を営む者に適用される優遇措置は、①年収1年分の年収加算金の支給、②選択定年加算金(退職時の勤続年数、格付、年齢により最大1000万円)の支給、③会社都合退職一時金の支給、④開業資金の融資斡旋、であった。
その後、45歳未満の社員からも、キャリア選択制度の適用を求める者があがったことから、Y会社は、45歳未満の社員にもキャリア選択制度に準じ、①平成8年3月末までに45歳に到達する社員に対しては、キャリア選択制度をそのまま適用する、②平成8年3月末までに45歳に到達してない社員であっても、40歳前後で退職後の進路計画がしっかりしている者については、会社都合退職金と年収加算金を支給する、特例を認めることとした。
なお、この取扱いは、従業員に対し周知公表することはされず、個別に退職の申し出があったときの一応の基準に過ぎず、実際の適用は、Y会社の裁量に委ねられる部分が多く、また適用の内容については、人事部長の決裁を得ることが条件となっていた。
Xは、平成7年2月頃、労働組合の副委員長に対し、自分にもキャリア選択制度の適用があるか否か名前を出さずにY会社の管理部長に尋ねて欲しい旨を要請、副委員長が管理部長に尋ねたところ、同部長は「いいよ」と答えた。
その後、8月24日、Y会社と労働組合との交渉において、組合側からの「45歳未満の退職希望者に対してもキャリア選択制度の選択定年加算金を支給するよう」にとの要請に対し、Y会社は「無理である」と回答し、その後10月、X及び管理部長、組合副委員長の3者の話し合いの中で、Xは、選択加算金が700万円支給されると聞いたと主張したが、管理部長が、これを拒否し、私の独断で200万円なら加算してよいと答えたところ、Xは納得しなかった。そこで管理部長は、「条件が不服なら退職せず会社に残って欲しい」と慰留したが、Xは承諾せず、平成8年1月11日付で退職する旨の退職届を提出した。Y会社は、退職日の翌日、Xに対し、退職金、年収加算金及び200万円の加算金を支払った。
これに対し、Xは、700万円の加算金の支払いを受けられるはずであるとして、差額の500万円の支払いを求めた。
判決のポイント
キャリア選択制度は、…
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