日の丸交通足立事件(東京地判令2・5・22) 69歳嘱託運転者が接触事故、すぐ申告せずクビ 更新は1回だが雇止め無効
自転車との接触事故を起こし、すぐに申告しなかった69歳のタクシー運転者を雇止めした事案。67歳定年で契約更新は1回などと会社は主張したが、東京地裁は、70歳以上も一定割合存在し、契約書等もないなど、体調や運転技術に問題が生じない限り、更新の合理的期待が認められると判断。事故につき警察は道交法違反とは扱わず、三十数年間の勤務態様も考慮すると雇止めは重過ぎるとした。
70歳超えて勤務も 重大事故でもなく
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y社は、主にタクシー運転者およびタクシー営業車の管理並びに運行を目的とする会社である。
Xは、Y社と昭和57年に期間の定めのない雇用契約を締結し、平成29年4月18日、67歳で定年退職した。定年退職後、XとY社との間で雇用期間を平成29年4月19日から平成30年4月18日までの1年間とする嘱託雇用契約を締結し、平成30年4月頃、嘱託雇用契約は同内容で更新された。
平成30年11月、Xは、乗務中、ホテル付近で自転車と接触した(以下「本件接触」)。本件接触後、自転車の運転者は走り去り、Xは、ホテルで乗客を降車させた後、警察や営業所に連絡することなく引き続き営業を続けた(以下「本件不申告」)。
Y社は、本件不申告について、その内容を営業所に掲示し、明番集会で報告するなどの周知を行わなかった。また、本件接触およびその報告義務違反は、Xの交通違反点数として登録されていない。
平成31年3月16日、Y社はXに対し、契約期間満了通知書と題する書面を交付した(以下「本件雇止め」)。更新しない理由として、「乗務中に道路交通法72条1項違反(報告義務違反)および第17条2項違反(歩道等手前での一時停止義務違反)に相当する行為を犯した」こと、Xの行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由に違反する行為であり、乗務員として不適格であると認められるためと記載されていた。同年4月22日、XとY社は話合いを行い、Xは、本件雇止めに納得しておらず、再契約を検討してほしい旨述べた。
Y社に所属する70歳以上の運転者は、運転手全体の16%を占め、嘱託雇用契約を締結している76歳の運転手もいる。
また、XはY社でタクシー運転者として稼働して以降、一度も人身事故を起こしたことはなく、無事故であることを評価され、平成12年には関東運輸局東京陸運支局長から表彰を受け、平成28年には、関東運輸局長から表彰を受けた。
判決のポイント
労契法19条2号における…
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