ベニス事件(東京地判平7・9・29) 退職後の行為を退職金の減額理由に 抽象的要件ではダメ
厳格な条件のもとでのみ、許される
筆者:弁護士 山田 靖典(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、文房具の販売等を営業しているY社に昭和48年に入社したが、郷里に帰って病気の母親の面倒をみることを退職理由として、平成4年8月20日付けで退職した。Y社は、退職金規程に基づき、退職金を302万8200円と算出し、退職時に半額を支払い、残額を平成5年から5年間の年賦払いで、支払うことを決定しXに通知した。ところが、Xは、郷里に帰らず、以前にY社に勤務していたAが社長を務めている同業他社のB社にAの誘いに応じて、同月31日付けで入社した。
そこで、退職金規程に「退職前に就業規則に違反する行為があった場合、退職後においても当社に対し損害を与えるが如き行為または不都合なる行為ありたる場合は、たとえ退職後であっても退職金支給率を減ずることがある」という規定があることから、Y社は、Xが①退職理由を偽ったこと、②競業関係にあるB社に入社したこと、③Y社の社員Cの引抜きに協力したことを挙げ、これらが退職金規程の減額事由に該当するとして、退職金を216万3000円に減額し、既払分を差し引いた残額を平成5年からの年賦払いで合計64万8900円を支払う旨Xに通知した。
Xは、この減額を不服として、当初の退職金の全額を支払うよう求めて提訴した。
判決のポイント
一般に退職金は、賃金としての性格の他に功労報償的性格をも合わせ有すると解されるので、退職した従業員に在職中の功労を評価できない事由が存する場合に、退職金の支給を制限することも許されないわけではなく、退職金の不発生事由や、一部不発生となる事由を就業規則に定めておけば(以下、「制限条項」という)、それが労使間の労働契約の内容となるので、制限条項に該当する退職従業員については、退職金請求権がそもそも発生しなかったり、あるいは制限された範囲において、同請求権を取得することになると解される。しかしながら、退職金が賃金たる性質を有していることに鑑みれば、…
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