片山組事件(東京高判平7・3・16) 「私病」を理由とした事務職への変更 会社は申し出を拒否できる ★
認められた当分の間の自宅治療命令
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
会社の工事部に所属し、現場監督業務に従事してきたXは、あらたに本件工事現場での現場監督業務を命じられた。しかし、Xは病気(バセドウ病)を理由に、事務作業はできるが現場作業には従事できない、残業も1時間に限られ日曜・休日勤務は不可能である旨申し出た。Xが委員長をしている労働組合も同様の就労条件を認めるか否かの回答を会社に求めた。
Xの提出した診断書では「現在内服薬にて治療中であり、今後厳重な経過観察を要する」と記載されていたが、病状が必ずしも判然としないため、会社の求めに応じXは自ら作成した病状の補足説明書を提出した。それによると「疲労が激しく、心臓動悸、発汗、不眠、下痢等を伴い、抑制剤の副作用による貧血等も病状として発生しています。今だ暫く治療を要すると思われます」とされていた。そこで会社は検討のうえ、現場監督業務は不可能であり、健康面・安全面でも問題を生ずると判断して、当分の間自宅で治療すべき旨の自宅治療命令を発した。この過程で会社は、産業医等専門家の意見を徴していない。
争点は、自宅治療命令期間中のXの賃金請求権の有無にあった。一審判決は、会社が産業医等専門家の客観的な判断を求めることなく就労を全面的に拒絶したことは相当性を欠き、賃金支払債務を免れないとしたが、本判決はこれを取り消し、会社の賃金支払債務を否定した。
判決のポイント
本判決は、Xの申し出を、労務の一部の提供を拒否する意思表示であり、会社の自宅治療命令を労務の受領拒否ととらえて、次のように判断した。…
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