電通事件(東京地判平8・3・28) 労働者の自殺と使用者の損害賠償責任 長時間労働との関係認める
具体的措置とらなかったのが過失に
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は大手広告代理店であり原告らの長男Aは、平成2年4月1日付けで被告に入社した。
自己申告によるAの時間外勤務時間及び休日勤務時間は、平成2年7月からの9カ月間の合計が723時間で、平成3年4月からの5カ月間の合計が296時間であった。また、申告されない長時間の時間外勤務、休日勤務があり、Aは、5日に1、2日の割合で深夜2時以降まで残業し、とりわけ平成3年7月、8月は午前6時30分に至るまでの残業を繰り返していた。
入社当時は明るく積極的であったAは、平成3年7月頃から、うつうつとして顔色が悪くなり上司もAの様子がおかしく健康状態が悪いのではないかと気が付いた。Aは、その頃、上司に対し、自信喪失感や不眠を訴えていたが、8月に入り、「自分で自分が何をしているのかわからない。ノイローゼ気味だ」などと発言することがあった。
Aは、平成3年8月、長野県で行われるイベントを実施するため上司とともに出張したが、上司に「霊にとり憑かれたみたい。もう人間として駄目かもしれない。自分で自分がなにをしているのかよくわからない」などと発言、イベント終了後帰宅したAは、27日に自宅において自殺した。
Aの両親である原告らは被告に対し、Aが被告から長時間労働を強いられたためにうつ病に陥り、その結果自殺に追い込まれたとして、民法415条(債務不履行責任)または同法709条(不法行為責任)に基づき、総額約2億2260万円の損害賠償を請求し、東京地裁は原告らの主張を認め、被告に対し総額約1億2588万円の損害賠償の支払いを命じた。
判決のポイント
Aの長時間労働は、…
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