東京海上火災保険事件(東京地判平8・3・27) 再雇用制度での雇用は希望者全員か? 採否の権限は使用者に
選任基準に必要性 健康など書き込む
筆者:弁護士 加茂 善仁(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、労使間で協定した再雇用制度が定年によって従業員を当然に再雇用する制度か否かが争われたものである。XらはY会社の従業員で、A労働組合の組合員であった。Y会社には、大多数の従業員で組織するB労働組合もあった。
Y会社の再雇用制度は、満60歳定年に達する従業員について、退職予定日の概ね6カ月前に人事部から所属長に対して、従業員が再雇用の希望を有しているか否かの報告を求め、従業員が再雇用を希望している場合には、所属長はその旨及び選任基準に関して、当該職場の業務の状況、本人の勤務状況、健康状態、再雇用すべき業務の必要の有無等を人事部に提出する。人事部は、再雇用すべき業務上の必要性、再雇用後の勤務見通し、再雇用後の健康状況を勘案した上で、再雇用の可否を決定し、その結果を従業員の定年退職の2~3カ月前に本人に通知する、というものであった。
本件再雇用制度について、Y会社は、B労働組合に提案し、論議、検討を行った。論議の過程で同組合は「再雇用の客観的基準を明示し、可能な限り本人希望を尊重し積極的に雇用拡大を図っていくべきである」と求めたが、Y会社は、「本人の希望は極力尊重するが、60歳以降の者については、健康等の面で満60歳以前と比べ個人差が相当あることも事実であり希望者全員を再雇用することは厳しい」と回答した。このようなやりとりの結果、B労働組合は、本件再雇用制度を受諾した。
その後、Y会社は、A労働組合に対し、本件再雇用制度を提案したところ、同組合は、団体交渉の席上、本件再雇用制度について、何の留保も付さず無条件で受諾した。Xらは、定年前に再雇用を希望する旨をY会社に申し入れたが、再雇用されなかった。そこで、Xらが、従業員としての地位を求めて提訴した。
判決のポイント
本件再雇用制度は、…
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