穂積運輸倉庫事件(大阪地決平8・8・28) 受理された後の辞職願撤回申入れの可否 合意解約で労働契約は終了
撤回ができるのは承諾される前まで
筆者:弁護士 山田 靖典(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、Y社の従業員で、Z労働組合の組合員である。Y社とZ組合は、運送部門から倉庫部門への配置転換について交渉してきたが、Z組合はこれに基本的に同意し、確認書が作成された。しかし、Y社は、Xらの勤務態度を問題にして、右確認書への調印を保留した。Xは、Y社に抗議するべく、Y社代表宛の平成8年3月21日付けの「自己の都合に依り平成8年4月20日付にて辞職致します」と記載された辞職届一通を作成して、3月21日午前8時30分ごろ、提出した。
Y社の管理職がXに対し、同日午後3時ころ、「これ社長から預かりました」と言って、Y社所定の退職届用紙を手渡した。同日、Y社代表者は取引先に対し、Xが退職日までに年次有給休暇の残り分をとると業務ができなくなる旨を連絡した。
Xは、同月25日朝、Y社代表者に対し、辞職願を撤回したいと申入れたが、Y社代表者は、撤回には応じられない旨を答え、同月26日朝、Xに対し、辞職願は受理されているので撤回はできない旨話した。
Xは、辞職願の提出は、労働契約の合意解約の申込みであって、この申込みはY社が承諾する前に撤回されているから、合意解約は成立していないと主張して、裁判所に対し、平成8年4月21日以降もY社との労働契約上の地位があることを仮に定めることなどを主旨とする仮処分申請をした。
決定のポイント
従業員から辞めるとの意思表示がなされた場合、それが使用者に対する一方的な意思表示である労働契約の解約告知であるのか、使用者の承諾を得て労働契約を終了させる合意解約の申込みであるのかは、それ自体で明白とは言い難い。それは、当事者の言動等により判断されることと解するが、本件では、…
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