栗本鐵工所・末広工業事件(大阪地判平8・7・29) どこまで必要か使用者の安全配膚義務 通常予測しうる範囲でよい
使用者に過失なく民事賠償義務否定
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件は労災民事賠償事件で、使用者側の安全配慮義務違反が否定された事案である。
鋳鉄管メーカーA社の協力業者Bに雇用された従業員Xは、A社の工場においてA社の指揮監督下で排水ポンプ5台及びバルブ5台を天井クレーンを利用して運搬する作業に従事中、安全な昇降用通路が設置されているにもかかわらず、それを使用せずに、高さ2メートル70センチの炉前床の転落防止用の手すり部分に鉤形の金具で引っかけ、下部は工場床に固定されない宙づりの状態で架けられていた梯子に昇り、重心をとりそこなって転落、後遺障害を伴う傷害を負った。
事故は業務上災害と認定され労災保険給付が支給されたが、XはさらにA社及びBに対し、安全配慮義務違反を理由に約2400万円の損害賠償を求めた。
判決のポイント
1 およそ使用者―事実上の使用従属関係に基づき信義則上その安全につき配慮すべき立場にある者を含む―は、自己の指揮・監督の及ぶ範囲内において職務に従事する者に対しては、右範囲内に存する危険等に対し人的・物的に安全対策面で十分な措置を講ずる義務があり、使用方法や使用態様如何によっては危険を生ずるおそれのある物については危険発生防止のため、正しい使用方法について指示説明し、誤った使用をしないように注意し、場合によっては右危険物を除去すべき義務があるものと解される。
2 しかしながら、使用者等に要求される指示説明ないし除去義務はあらゆる場合に要求されるものではなく、公平の見地から合理的な範囲内に限定されるものというべきであって、使用者等において、従業員等が通常予測しえない使用方法・態様に出ることまでを想定して、安全のための措置を講ずるべき義務はないというべきである。
3 本件では、…
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