ルックス・ジャパン事件(大阪地決平6・7・28) 労組委員長が配転命令を拒否 命令違反理由の解雇は妥当
業務上の必要性等基準満たせば
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
Aは、ルックス・ジャパン株式会社(以下、会社、という)の姫路営業所の営業担当として働いている者であるが、平成5年7月24日、ルックス・ジャパン労働組合(以下、組合、という)の執行委員長に選出された(以前は組合の副執行委員長であった)。
姫路営業所は所長、女子事務員、JA推進担当課長各1名のほかAを含む営業職の5名で構成されていた。
しかるところ、平成5年10月27日、会社はAに対し、同年12月1日付で大阪営業所営業担当への配置転換を発令した(以下、本件配転、という)。なお、本件配転にはAの通勤の便を考慮し、Aの自宅の最寄り駅である山陽新幹線相生駅から新大阪駅までの通勤定期代を会社が負担するとの意思表示が付されている。しかし、Aは引き続き姫路営業所で勤務することを希望し、本件配転を拒否した。
平成5年11月8日、本件配転について組合と会社との間で団体交渉が開かれたが、その撤回を要求する組合と、その正当性を主張する会社との間で交渉は物別れに終わった。また、組合の申請により、平成5年12月20日と24日の2回にわたり、大阪府地方労働委員会において本件配転の撤回に関する斡旋が実施されたが、不調に終わった。
会社は、再三、姫路営業所を訪れ、本件配転に応じるよう説得したが、Aは態度を変えなかった。よって、「正当な理由なく業務に関する会社の命令に従わないとき」および「会社の秩序、統制、風紀を乱したとき」は懲戒解雇するとの就業規則に基づいて、会社は平成6年1月6日付でAを懲戒解雇した。
会社が本件配転を発令したのは、姫路営業所の担当職員から「転勤若しくは現状改革願い」と題する文書が所長宛に提出され、Aの自己中心的な発言や行動に対して職場の人間関係が極めて険悪化していることが判明し、このような状況下で仕事の効率も落ち、売り上げの低下を招きかねないと判断され、姫路営業所の営業成績に悪影響を出さないためには、Aを(受け入れを内諾している)大阪営業所へ配転して、姫路営業所の人間関係を改善するほか解決策はないとの業務上の必要に基づくものであった。
これに対してAは、本件配転は、いわゆる「新給与システム」導入に反対する組合およびその執行委員長であるAを敵視し、嫌悪したことによるもので、不当労働行為であると主張した。
すなわち、平成5年7月19日、姫路営業所長からAら営業職員に対し、「新給与システム」の導入についての説明があり、この給与改訂は、営業職の給与と営業成績との相関関係がより強くなる内容であったため、Aはこれに反対し、組合とともに団体交渉の開催を要求し、同月29日団体交渉が開催されたが、会社は、平成5年8月1日から、「新給与システム」を実施した。
同月4日、会社から組合に対して就業規則の一部改訂に関し組合の意見を聴取する文書が送付されてきた。組合はこれに文書で抗議したが、会社は同月26日、実施の方針を変えるつもりはないと回答、Aは平成5年9月6日、姫路労働基準監督署に出向き、就業規則の改訂手続に瑕疵がある旨訴えた。
本件配転は右のような状況の中で、同年10月27日になされたもので不当労働行為であると主張した(労働組合法7条1号、3号)。
決定のポイント
本件の焦点は、Aが組合の執行委員長として「新給与システム」の導入に反対したことから、そのことを会社が敵視、嫌悪し、本件配転をなしたか否かである。…
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