本田技研工業事件(東京地判平6・12・20) 缶を運搬中に階段から転落 安全配慮義務違反を否定
通常の安全管理尽してればよい
筆者:弁護士 安西 愈
事案の概要
本件は、原告が被告の狭山工場で勤務中、石鹸液の入った18リットルのブリキ缶を運ぶ途中、階段から転落して傷害を受けたことから、被告会社の安全配慮義務違反を理由に、本件事故による外傷性腰椎椎間板ヘルニアの傷害につき事故当日から平成5年5月10日まで入通院治療を受けたが(入院日数210日)、後遺障害等級表7級4号の後遺障害を残したことにつき被告を相手に損害賠償を請求した事案である。
本件転落事故のあった階段は、幅が90センチメートル、高さが36メートルのスチール製直線型のものであり、踏み面22センチメートル、蹴上げ20センチメートルの段が18段あって、その勾配は42度である。途中に踊り場はないが、高さ1メートルのスチールパイプ製の手すりが両側に設置されている。また、踏み面は、縞板鋼板製で、斜めの格子縞模様が浮き上がっていて、滑り止めの役目を果たし、その端には4本のレール状の滑り止めが付いている。階段の途中には『足元に注意』との表示がされ、3週間に一度は乾拭きが実施されている。階段下には汚れ落としマットが設置されており、階段下の対面には1.2メートル隔てて鉄製の壁がある。階段の照度はその中ほどで78ルックスである。原告の安全靴の底は、硬質ゴム製で、登山靴のように彫りがあり、すべり止めの役目を果たしている。
判決のポイント
本件は、前述のような階段からの転落事故について、使用者に対し安全配慮義務違反による損害賠償が請求された事案である。本件は、次のように判決して請求を棄却したが、安全配慮義務の限界を示し、使用者に、安全管理をしておれば勝訴することを示した企業の担当者の必読の判決といえよう。
判決は、階段の構造、安全性について検討した。…
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