住吉学園事件(大阪地決平6・11・22) 教師としての適格性欠如理由に解雇 合理性欠き解雇は苛酷
職務怠慢行為はあっても“軽微”
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
Aは、学園に昭和53年4月に非常勤講師として奉職し、昭和55年4月に専任教師に昇格した。
Aは、担任教師として要求される責務を放擲し、生徒におもねり、甘やかし、遅刻・早退をなすがままにさせ、単位不認定となるおそれのある生徒が、「補習授業」を欠席してもそのまま放置するなど、「生徒一人一人を大切にし、放任主義を排し、あと追い指導ではなく、常に生徒の行動に対し細心の注意をはらい、事前にきめ細かな指導をする」姿勢に欠けており教師としての適格性に欠けるものである。
Aは平成5年11月27日、校内において入試説明会に来た保護者や生徒に対し、「理事長及び校長らが学園を私物化し、管理職を増員し、これを優遇し、管理経費を年間5500万円と大幅に増額する等して放漫経営を復活した。これは経営危機の再発と学園崩壊に直結する等々」の虚偽の内容のビラを配布し、学園の信用を失墜せしめ、生徒の募集を妨害した。また、無断でなされた本件ビラ配布は、学園の校内においても不当である。
Aは平成6年、単位不認定の可能性の高い生徒とその両親に対し「校長や教頭やったらなんとかなる」などと唆し、公正であるべき単位認定が「寄付金や政治力」で左右されるかのごとき印象を与え、関係者を無用なトラブルに巻き込むとともに単位認定制度の権威を貶しめた。
なお、Aは平成4年7月29日、水泳部の顧問をしていたが、合宿中、中途退学していた生徒の喫煙により失火したため、同人の参加を容認したこと等により管理責任を問われ、減給処分になっている。Aは以上のとおり、適格性の欠如等の理由により、懲戒解雇事由にも該当するが、学園は、温情により、Aを平成6年3月25日普通解雇(以下、本件解雇という)としたものである。これに対してAは、右の解雇理由を全面的に争って本仮処分申請に及んだ。
決定のポイント
学園が、躾教育を中心とする日本女性としての婦徳の涵養に努力し、強く、正しく、優しい女性を育成することを教育目標として、創立された学校であることから、そこで働く教師の適格性とは、解雇との関係でどのように理解したらよいか、という点にある。本判決は、学園の右主張に対して、およそ次のよう判示して本件解雇を無効としたものである。「ビラ配布の点については、…
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