HIV感染者解雇事件(東京地判平7・3・30) HIV感染を理由とする解雇の効力 権利の濫用で違法行為に

1995.05.29 【判決日:1995.03.30】
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疾病の告知は医療者に限られる

筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)

事案の概要

 原告は平成4年9月、被告との間にタイ王国でソフトウエアを販売する現地法人に派遣されて勤務する旨の雇用契約を締結、同年10月1日、タイ王国に入国し、就労許可を取得するため、同月13日に同国内の病院において健康診断を受診した際、医師が許可取得に必要な診断項目以外のHIV抗体検査を実施し、原告がHIVに感染していることが判明した。病院から報告を受けた現地法人は、被告社長にその報告内容を連絡、被告社長は急遽原告を帰国させ、同月19日に原告に対し、HIVに感染している旨を告知し、国内において再度検査することを勧めた。

 ところが、被告は原告に対し、同月28日到達した同月26日付内容証明郵便をもって、原告がタイ王国において就労ビザの取得ができず、本件雇用契約の目的を達することができなくなったことなどを理由に雇用契約を解除すると通知した。

 原告は、被告の主張する解雇理由は存在せず、本件解雇の真の理由は原告がHIVに感染していることにあるが、HIVは、通常の接触では感染することはないし、感染だけの状態なら普通に就労することが可能であり、解雇の正当な事由になり得ず、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを求め、さらに被告社長が原告にHIVに感染していることを告知して感染を全く知らず心の準備ができていなかった原告に多大な精神的苦痛を与えたこと、検査を受けることを勧めておきながら、その結果も出ないうちにHIVに感染していることを理由に解雇して原告に極めて甚大な精神的苦痛を与えたことが、いずれも不法行為であると主張して、慰藉料の支払いを求めた。東京地裁は原告の請求を認め、雇用契約上の地位を確認し、賃金の支払いと金300万円の慰藉料の支払いを被告に命じた。

判決のポイント

 被告の主張する解雇の理由はいずれも根拠がなく、…

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平成7年5月29日第2058号10面 掲載
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