淀川交通事件(大阪地決令2・7・20) 性同一障害の運転者、就労拒否され賃金請求 化粧理由に乗務禁止は不当
性同一性障害のタクシードライバーが、化粧を理由に乗務を禁じられたとして、賃金の仮払いを求めた。大阪地裁は、女性と同等に化粧することを認める必要性があると判断。化粧の濃さなどを問題視せず就労を拒否したことに必要性も合理性もなく、民法に基づき賃金100%の支払いを命じた。会社が主張した乗客の苦情の有無は明らかでなく、会社が不利益を被るとは限らないとした。
苦情有無など不明 全額払いを命じる
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、平成30年11月12日、会社との間で、期間の定めのない労働契約を締結しタクシー乗務員として勤務する性同一性障害の診断を受けた昭和35年生まれの男性であるところ、社会生活全般を女性として過ごしており、タクシー乗務員として勤務中も顔に化粧を施していた。
会社は、令和2年2月7日の午前4時頃、男性の乗客から甲に男性器をなめられそうになったとの苦情を受けた。
会社を含むグループ会社の渉外担当の従業員ら3人は、令和2年2月7日、甲との間で面談を実施し、甲に対し苦情や乗車拒否、運賃の過大請求などの苦情が寄せられているとの指摘を行い、同日以降は甲に「乗務させられない」と告げたり、退職を示唆する等した。
甲は、令和2年2月7日以降、会社において業務に従事していない。そのため、甲は、会社に対し、会社の責めに帰すべき事由による就労拒否があったと主張して、民法536条第2項(債務者の責めに帰すべき事由によって、債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない)に基づき、賃金の仮払いを求めて大阪地裁に仮処分の申立てを行った。なお、会社は、就業規則に基づく懲戒処分を講じるなどはしていない。
本決定のポイントは、会社が甲の乗務を禁止したことに正当な理由があるか(会社の帰責性の有無)である。本決定はおよそ以下のように判示して、甲の申立てを一部認容した。
判決のポイント
(1)男性乗客からの苦情
甲は、本件苦情の内容が…
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