全農林事件(東京高判平7・2・28) 人勧完全実施を要求し3時間のスト 違法ストで懲戒は妥当 ★
共同利益からのやむえない制約
筆者:弁護士 開原 真弓(経営法曹会議)
事案の概要
①事件は、国家公務員の給与改定等に関する人事院勧告が凍結された昭和57年、全農林労働組合が人事院勧告の完全実施等を要求して、12月16日に始業時から2時間、同月24日に始業時から1時間の計3時間のストライキを行った際、同労組の幹部としてオルグ活動やスト実施の指導をしたAら6人に対し、停職3カ月ないし6カ月の懲戒処分がなされたためAらが農林水産大臣らを被告とし右懲戒処分の取り消しを求めたものである。
②事件は、ホテルオークラ労働組合が、昭和45年10月6日午前9時から同月8日午前7時までの間及び同月28日午前7時から同月30日午後12時までの間の2回にわたり、就業時間中「要求貫徹」等と記入したリボンを着用するリボン闘争を実施した際、右組合の幹部であったBら5人に対して平均賃金の半日分の減給及び譴責処分がなされたため、Bら5人、右組合及び全日本ホテル労働組合連合会が東京都地方労働委員会に対して右処分の取り消し及び減給に係る賃金相当額の支払いを命ずる救済の申し立てをしたところ、都労委が右処分は不当労働行為にあたるとして救済を認容する命令を発したので、ホテルオークラを経営する大成観光株式会社が、都労委を被告として、右救済命令の取り消しを求めたものである。Bらも起訴参加して争った。
判決のポイント
①の事件においては、争議行為禁止の代償措置としての人勧の凍結により給与を据え置かれた場合にも争議行為を行うことが許されないかが主たる争点であった。
裁判所は一審、二審ともに、昭和57年度の人勧凍結は、財政の非常事態を理由とするやむを得ない異例の措置として当該年度に限ってなされたものであって、争議行為禁止の代償措置が画餅に等しいと見られる事態を生じたとは言えないから、本件ストは違法であるとした。裁判所はその上で、ストの規模、様態、Aらの役割、処分歴からして懲戒権の濫用もないとして、Aらの請求を棄却した。
②の事件においては、一審、二審とも、リボン闘争は組合活動の面においても争議行為の面においても違法であるとして、救済命令の取り消しを認めた。すなわち、組合活動は本来労働組合が自己の負担及び利益において時間及ひ場所を設営して行うべきものであり、勤務時間の場でリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であって経済的公正を欠くとともに、誠実に労務に服すべき労働者の義務に違背する。また、リボン闘争は、使用者との指揮命令関係に服しつつ心理的嫌がらせをなすものであって、使用者の業務指揮権の確立を脅かすものであるし、賃金カット、ロックアウトのいずれも技術的に困難であり、使用者は対抗手段を持ちあわせないから、争議行為としても正当な行為ではないとした。
最高裁も、…
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