真備学園事件(岡山地判平6・12・20) 脳内出血による死亡と安全配膚義務 「漫然と怠っていた」と判断
仕事量調整などで発症を防げた
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、私立高等学校・中学校を設置する学校法人であり、Aは昭和41年4月に被告に教員として採用された。Aは、昭和59年10月に腎疾患に起因する悪性の高血圧症の診断を受け、通院して治療を受けていたが、昭和61年7月にはさらに症状が悪化したため、医師より入院治療、仕事量の削減などの勧告を受けたが、医師の勧告に従わず、また、それを家族や学校に伝えることもしなかった。
Aは、昭和61年度になって教務課長として奔走する一方で、副担任としても負担が増加していたところ、同年の10月に教頭が入院したことから教頭代行に就任し、同月25日から28日までの間、修学旅行の引率に参加した。11月7日にはPTA補導部会で校長の代わりに挨拶をする手筈となり、初めての経験を前にかなり緊張していたが、その直前に校長の代わりとして生徒に対する訓戒説諭の場に立会っていた際、腎機能低下による高血圧が原因となって脳内出血を起こして昏倒し、10日後に死亡した。
Aの相続人(妻・子)である原告らは、使用者は労働安全衛生法3条等により、その被用者の安全に適切な措置を講じ、疾病の発生ないしその増悪を防止すべき安全配慮義務を負っているところ、被告には産業医の選任と定期検診の懈怠、健康状態の観察の欠如などの義務違反があり、Aに対し過重な労務を強いたため、Aの死亡を招いたもので、Aの死亡は被告の安全配慮義務違反によるものであると主張して本訴を提起した。本判決は、被告の責任を認めたが、損害賠償額については、Aにも自己保健義務違反があることを理由に、過失相殺して4分の1に減額した。
判決のポイント
労働者が死亡の素因となるべき基礎的な疾患を有する場合でも、職務に従事したことが右疾病増悪の有力な原因として作用し、その結果死亡に至ったものとして、職務及び疾病が死亡の共働原因となったといえるときには、…
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