商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(大阪地判平6・9・30) 口頭のみ労使合意と労働協約の効力 書面性に欠け効力はない
両当事者の署名 押印が必須要件
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件の主たる争点は会社と組合との間で年末一時金請求権に関する合意が成立したか否かにあった。原告(退職した組合員)の主張は、会社の提示した一時金に関する協定書の内容を組合がすべて受諾する旨口頭で意思表示したので、一時金に関する労働協約が成立した。仮に成立していなくとも民事上の合意が成立したというものである。
就業規則には一時金の支給についての規定はなく、従来一時金の支給に当たっては、会社と組合との間において、事前折衝や団体交渉によって交渉し、合意が成立すれば協定書(労働協約)に作成して双方が署名又は記名押印したうえ、会社は一時金を支給してきた。そして、支給日当日在職する従業員についてのみ一時金を支払う旨の、いわゆる支給日在籍条項を設けることを合意して労働協約を締結してきた。問題となった交渉経過は次の通りである。
①本件の平成4年の年末一時金交渉において、会社は組合に対し協定書案をもって一時金についての回答を行った。右協定書案には、支給額の他、支給日在籍条項と一定の事由に該当するものについては、一時金を減額して支給するとの特別評価の項目が付加されていた。
②組合は会社に「妥結通知書」を提出したが、その内容は協定書案に原則として同意するが、支給日在籍条項や特別評価などの項目については同意しないというものであった。
③そこで、会社は支給日と協定書案の条項のすべてを承諾して調印する旨を確認するとの二項目を追加した「協定書」を作成し、組合に対して「妥結通知書」の白紙撤回を条件に、「協定書」を承諾するなら会社は「協定書」に調印する旨を伝えた。
④組合は、「協定書」に記名押印をして提出したが、「妥結通知書」の白紙撤回には応じなかったので、会社は「協定書」を受領せず調印もしなかった。
このような経過で、労働協約が成立したといえるのかが争われたのである。
判決のポイント
労働組合法14条が、「労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生じる」と規定していることから明らかなように、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら