吉野事件(東京地判平7・6・12) 退職金規定ない場合の“不支給”は正当か 慣行確立していればOK

1995.12.04 【判決日:1995.06.12】
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功労を抹消する背信行為に限り

筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)

事案の概要

 被告Y社は、ガラス繊維製品並びに高温用耐火断熱繊維製品の販売、英国製防食テープの販売、防食・防水工事の設計・請負・施工等を目的とする会社である。原告X1~X4はY社東京支店に勤務していた。

 経営方針を巡って経営陣と対立していたY社の東京支店長らは、昭和63年2月にガラス繊維製品・セラミック繊維製品・高温用耐熱繊維製品の加工・販売、防食剤の販売、防食工事の施工などY社と同様の目的を有する新会社を設立したが、X1~X4はその発起人となって株式を引き受け、X1は新会社の取締役に就任した。X1、X2はY社の事業活動を行う傍ら、新会社の業務にも従事していたが、新会社の取扱商品、仕入先、販売先はY社と殆ど共通していた。

 同年6月に、新会社の事業活動を行っていることがY社に発覚し、X1、X2は懲戒解雇された。その後、Y社に留まっていたX3、X4も同年7月から8月にかけて退職し、新会社に就職した。

 Y社は、退職金規程を含め就業規則を制定していなかったが、昭和60年9月頃「退職金規程(案)」を作成した。しかし、同規程(案)は、正規に退職金規程として制定されることなく、労働基準監督署に届け出られることもなかった。しかしながら、Y社では、退職者に対し、右「退職金規程(案)」に基づいて退職金を算定し、「懲戒その他不都合」のない限り、右退職金をそのまま支給し、「懲戒その他不都合」があった場合には、これを若干減額し、あるいは長期にわたる無断欠勤など不都合の事由が甚だしい場合は、全く支給しない取り扱いをしていた。このような取り扱いは10数件にのぼっていた。

 X1~X4はY社に対し、「退職金規程(案)」に基づく退職金を請求したのが本訴であり、東京地裁はX3、X4の請求を認容したが、X1、X2の請求は棄却した。

判決のポイント

 1、正規の退職金規程が制定されていなくとも、…

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平成7年12月4日第2083号10面 掲載
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