三協事件(東京地判平7・3・7) 利益低下のない企業の退職金引下げは 手続き不備で改訂は無効
1995.12.11
【判決日:1995.03.07】
一方的に引下げる危機的状況
筆者:弁護士 安西 愈(中央大学講師)
事案の概要
本件は、定年退職した元従業員が会社に対し、業績悪化を理由に退職金規定の支給率を引き下げる改訂をなしたことは無効であるとして、この改訂前の支給率に基づいた退職金の支払いを求めた事案である。
本件退職金規定の中の改訂条項には「この規定は、関係法規の改正及び社会事情の変動等の事由により、必要があると認めた場合は、従業員の代表との協議により改廃することができる」と定められており、元従業員は、この退職金規定の改訂が本件退職金規定の改訂条項にいう「従業員代表との協議」を経ていないことから何の効力も生じないし、また本件は退職金額を不利益に変更するものであり無効であると主張している。
一方、被告会社は業界の業績不振の影響を受け売上高が大幅に下回っており、また退職金の支給率も他社のそれと比して割高であり、この改訂には合理性があるとしている。
そこで、右退職金規定の変更の労働者に対する効力について、改訂の手続面と実体面で争われたのが本件事案である。
判決のポイント
①本件改訂手続について
本件改訂条項は、被告会社において本件退職金規定を改訂するには会社に対し従業員の代表者との協議を経るべき義務を負わせているものと解することができる。このことは、従業員に支給する退職金は、…
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平成7年12月11日第2084号10面 掲載