アルパイン事件(東京地判令元・5・21) 60歳から単純事務作業は「屈辱」と損害賠償請求 定年後の条件不合理でない
60歳定年後も音響機器の開発業務を希望していたにもかかわらず、単純な事務作業を提示され屈辱感を受けたとして損害賠償等を求めた。東京地裁は、高年法は労働者が希望する条件で継続雇用等を義務付けていないと判断。賃金額には同意しており、勤務場所、職務内容も「客観的にみて不合理」とはいえないとしている。継続雇用を拒否した理由は主観的なものにとどまるとした。
本人主観考慮せず 賃金額は同意あり
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
Xは、音響機械器具の製造販売等を目的とするYの従業員として稼働していた。Xが、Yに対し、定年前の雇用契約の終了後においても再雇用されたのと同じ職務を内容とする雇用関係が存続しており、仮にそうでないとしても、Yが定年後の再雇用の条件としてXの希望する従前と同じ職務内容と異なる職務内容を提示した行為等は違法であると主張して、①雇用契約に基づき、勤務部署をサウンド設計部、職務内容を音響機器の設計および開発とする労働条件での雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②不法行為に基づき、慰謝料の支払等を求めた事案である。
Xは、昭和55年に大学卒業後、数社での勤務を経た後、平成16年10月、Yに雇用され、サウンド設計部で稼働していた。
Yの就業規則には、「社員は、満60才の誕生日以後初めて迎える3月15日又は9月15日をもって定年とする。定年再雇用制度の対象者に係る基準については、労使間個別協定…の定めるところによる」との定めがある。同協定には、「本人の意向を踏まえ、会社は再雇用希望者の知識、技能、ノウハウ又は組織のニーズに応じて、職務及び労働条件を設定し、原則として契約開始の6カ月前までに本人に提示する。なお、再雇用先にはグループ会社も含むこととし、Y以外で就労する場合の労働条件等は各社の基準による。会社は、定年退職予定者に対し、原則として定年退職日の1年前までに、再雇用の希望有無等に関する意向調査を行う」との定めがあった。
Yは、100%子会社であるアルパインビジネスサービスとの間で、平成26年4月1日、Yが高年法9条1項2号に基づきその雇用する高年齢者の継続雇用制度を実施するため、Yの雇用する定年後の継続雇用希望者をその定年後にアルパインビジネスサービスが引き続き雇用することを約する契約を締結した。
Yは、平成29年7月10日、Xに対し契約会社をアルパインビジネスサービス、勤務先会社をY、勤務部署を人事総務部、職務内容を労政チーム内業務(①時間外申請〈協定書、定時退社除外申請、休日勤務等〉関連受付、②月次時間外集計資料作成)等、定年再雇用の条件を提示した。
Xは、Yに対し、同月21日、定年再雇用の条件につき、勤務部署としてサウンド設計部を希望するとの旨伝え、続いて、同年8月18日、契約期間・年間総労働日数・始終業時間・給与は了承するが、勤務部署をサウンド設計部とし、職務内容も従前と同内容で定年再雇用してもらいたい旨通知して、Yが提示した条件を拒否し、さらに、同年9月5日頃、改めて、上記条件を拒否する旨通知した。Xは、同月15日をもって定年となり、退職金の支払いを受けた。
判決のポイント
(1)XとYとの間に定年以降雇用契約関係が存在するか
Xは、…
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