レジェンド元従業員事件(福岡高判令2・11・11)同業の保険代理店へ転職、顧客営業して賠償は 競業避止特約不利益大きい
同業他社へ転職した保険営業マンに対し、保険代理店が自社の顧客への営業活動を理由に損害賠償を求めた。誓約書に退職後の競業避止特約があった。一審は一部損害と認めたが、福岡高裁は、顧客すべてに対する営業禁止は公序良俗に反するとした。これまで獲得した顧客がすべて含まれ不利益が大きく、金銭の代償措置もなかった。顧客から引き合いを受け本人が勧誘したと認められないものは同義務の対象外としている。
既存客すべて制限 勧誘したかで判断
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
ア X社は、B社、C社およびD社の各種保険契約の募集・締結を主たる業務とする株式会社である。
Yは、G社を開業した後、平成20年11月にX社の立上げに向けX社の前身であるE社に入社した。このとき、YがG社で獲得していた顧客(以下「Y既存顧客」)の保険契約はE社に移管された。その後、Yは、E社が平成21年3月に法人化して設立されたX社の従業員として勤務し、生命保険および損害保険の営業および顧客管理等に従事した。
イ Yは、平成28年4月頃、機密保持誓約書(以下「本件誓約書」)に署名押印しX社に提出した。同誓約書には「退職後、同業他社に就職した場合、又は同業他社を起業した場合に、X社の顧客に対して営業活動をしたり、X社の取引を代替したりしないことを約束します」(以下「本件競業避止特約」)と規定されていた。Yは平成29年8月31日付でX社を退職し、遅くとも同年9月1日までに、X社と同じく保険代理店業を営むF社に入社した。
ウ Yは、G社として稼働していた平成20年夏頃、A病院(以下「本件病院」)に対して、B社の企業財産包括保険(以下「本件保険」)の提案をし、YがX社(当時はE社)に入社した後の21年1月、本件病院は、E社を代理店とし、本件保険に加入した。平成29年8月31日、X社代表者、Yらは本件保険の契約更新を依頼するため、本件病院に赴き、本件病院の事務部副部長と面会したが、本件保険の契約更新には至らなかった。
Yは、F社に転職後、本件病院に対して、保険商品を提案し、本件病院は、平成29年9月、F社を代理人としてI社と保険契約を締結し、本件保険を更新しなかった。
エ X社は、①YがX社在職中に同業他社の使用人となったこと、②YがX社在職中に競業避止義務に違反したこと、③YがX社を退職後に競業避止義務に違反したこと、④YがX社退職後に秘密保持義務に違反したことにより、X社の顧客の一部が保険契約を更新しなかったためX社に損害が生じたと主張して、Yを提訴した。
一審(福岡地裁小倉支判令2・6・16)は、X社の請求を一部認容したところ、Yが控訴したのが本件である。
判決のポイント
[事案の概要]エ①、②及び④の事情をもって、…
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