シルバーハート事件(東京地判令2・11・25) 週3日働くはずがシフト減らされたと賠償請求 勤務削減に合理的理由なし
週3日勤務のシフトを削減されたとして、社会福祉施設の従業員が未払賃金を求めた。雇用契約書に勤務日数の記載はなく、「シフトによる」としていた。東京地裁は、合理的な理由なく日数を大幅に削減した場合、シフト決定権限の濫用に当たり違法となり得ると判断。会社が一方的に1日や0日とした月について、直近3カ月の賃金額との差額支払いを命じている。週3日の契約成立は認めなかった。
実績から差額算出 日数の合意は否定
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
X社は介護事業および放課後児童デイサービス事業を営み、高齢者介護事業所であるC2、C3事業所、放課後児童デイサービス事業所を運営している。
平成26年1月頃、YはX社の求人広告を見て採用に応募したが、その際、Yの履歴書には週3日の勤務を希望する旨の記載があった。X社とYとの雇用契約書には、就業場所としてX社の各事業所(主たる事業所の記載なし)、業務内容は空欄、始業・終業時刻および休憩時間の欄には、「始業時刻午前8時、終業時刻午後6時30分(休憩時間60分)の内8時間」、「シフトによる」旨の記載があった。
X社の各事業所の勤務体制は、各月に組まれるシフトで決定され、その決定方法は、前月の中旬頃までに各従業員が各事業所の管理者に対し翌月の希望休日を申告し、管理者は希望休日を考慮したシフト表の案を、前月下旬頃のシフト会議に持ち寄り話し合いを行い、各事業所の人員が適正に配置されるよう、人手が足りない事業所には人員の融通を行う等の調整を行ったうえ、正式に決定される。また、利用者が少ないときには、Yに限らず半日勤務になることがあった。
平成26年1月、YはX社に入社後、当初はC2事業所、次いでC3事業所で勤務したが(いずれも介護業務)、平成28年1月頃、児童デイサービスの勤務シフトに入るようになり、平成29年2月からは児童デイサービスでの勤務のみとなった(勤務シフトは原則として午後の半日勤務であった)。同年5月のYのシフトは13日(勤務時間65.5時間)、6月は15日(同73.5時間)、7月は15日(同78時間)であったが、同年8月は5日(勤務時間40時間)、同年9月は1日(勤務時間8時間)とされ、同年10月以降は1日も配属されなくなった。
平成28年10月頃、Yは労働組合(Nユニオン。以下「本件組合」)に加入し、X社と本件組合とは、(ア)週3日24時間勤務に戻すこと、主たる勤務地をC2とすること、(イ)時給を改善すること等を主な団交事項として団交を行った。Yは平成29年10月、平成30年3月の団体交渉において、児童デイサービスの勤務には応じない旨を表明している。
X社は、Yに対する週3日・1日8時間・合計24時間、X社の介護事業所に限定して労務を提供させる債務等が存在しないことの確認を求めてYを提訴し(不存在確認請求)、Yは、X社に上記債務があることを前提に、未払賃金を請求してX社を反訴した。
本件の論点は多岐にわたるが、本稿では、X社とYとの雇用契約の内容(合意)および勤務シフト制の適否、シフト減の適否について解説する。
判決のポイント
ア 雇用契約書には、…手書きの「シフトによる」という記載があるのみであり、…
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