製麺会社A事件(旭川地判令2・8・31) 製麺機で指を骨折、会社の安全配慮義務違反は 刃を覆う対策や教育怠った
製麺機に手を巻き込まれて骨折した従業員が、安全配慮義務に違反したとして会社に損害賠償を求めた。旭川地裁は、作業は麺に縮れを付けるために製麺機に手を伸ばす必要があり、刃はむき出しで高い危険性を有するとした。刃に覆いはなく、危険性に関して注意喚起の表示や教育をしたとも認められないことから不法行為と判断。作業時に手元を注視しなかった従業員の過失を3割としている。
注意喚起表示なく 手元見ず過失3割
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
Xは、Yの被用者として製麺業務に従事中、Yが管理する製麺機(以下「本件製麺機」)に左手を巻き込まれる事故(以下「本件事故」)により、左手示指遠位指節間関節開放性脱臼骨折および左中指末節骨開放骨折の傷害を負った。そこで、Xが、Yに対して、Yの雇用契約上の安全配慮義務違反により負傷したとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求等をしたものである。
本件製麺機は、作業者から見て左側に、セットされた麺帯から麺を切り出すために上下する刃がついた部分があり、その刃は常時露出している。切り出された麺は、作業者の前に位置する、作業者から見て左から右に流れるベルトコンベアによって運ばれる。また、作業者から見てベルトコンベアの右奥側には、本件製麺機のスイッチが設けられており、作業者が任意に操作することができる。
Xは、本件製麺機により切り出されてベルトコンベアで流れる麺から、1玉分の麺を持ち上げ、両手で軽く握ってベルトコンベアの右側に置かれた折箱に詰めていく作業を担当していた。また、その作業の過程では、麺帯を入れ替えた時などに、麺に縮れを付けるために、右手でスイッチを操作しつつ、左手を本件製麺機の刃の真下に当たる部分まで伸ばして、出てくる麺を押さえるとの作業も予定されていた。
本件事故の態様についてX、Y間で争いがあったが、本判決は、本件事故の状況について、Xが、視線を本件製麺機ではなく正面に向けた状態で、右手でスイッチを押しつつ左手を本件製麺機の刃の方に伸ばしたことで、左手が本件製麺機の刃に触れたことにより発生したものと判断した。本判決は、Yの安全配慮義務違反を認めたが、Xの過失を3割と判断し、Xの請求を一部認容した。
判決のポイント
(1)安全配慮義務違反
使用者は、労働者に対して、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら