フォーカスシステムズ事件(最大判平27・3・4) 過労死に民事損害賠償、労災保険との併給調整は? 元本から給付分を差し引く ★
過労死により遺族に損害賠償が認められた場合、遺族補償年金を賠償額からどう差し引くかが争われた。利息である遅延損害金を除いた元本から差し引くとした二審は、平成16年の最高裁判決に反するとして遺族が上告した。最高裁は、遺族補償年金が填補の対象とする損害と、同性質かつ相互補完性を有する元本との間で損益相殺的な調整をすべきとして、請求を斥けた。
利息とは相殺せず 最高裁判決を変更
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
上告人らは、過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したAの相続人である。上告人らは、Aが死亡したのは、長時間の時間外労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し、正常な判断能力を欠く状態で飲酒をしたためであると主張して、Aを雇用していた被上告人に対し、損害賠償を求めた。
原審(東京高判平24・3・22、本紙2898号)は、被上告人の責任を認めたが、損害額の算定において、上告人らが受給した労災保険法上の遺族補償年金について、逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をすべきとするとともに、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害が不法行為のときに填補されたものとして調整をすることが相当であると判示した。
そこで、上告人らが、かかる判示は、遺族補償年金等がその支払時における損害金の元本および遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきとした最判(平16・12・20、以下「平成16年判決」という)に反するとして上告した。
判決のポイント
① (被害者の)相続人が受ける利益が、被害者の死亡に関する労災保険法に基づく保険給付であるときは、民事上の損害賠償の対象となる損害のうち、当該保険給付による塡補の対象となる損害と同性質であり、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら