中央労働基準監督署長事件(東京地判平26・6・23) 忘年会後に軽食、駅のホームからの転落死は通災か “通勤遂行性”の要件を欠く
忘年会後にラーメン店に立ち寄った後、通勤経路上の駅のホームから転落死したが、労災不支給とされ遺族が処分取り消しを求めた。東京地裁は、ラーメン店での飲食は会社の指揮命令下といえないとしたうえで、食事にほぼ手を付けず懇談が目的として、通勤に付随する「日常生活上必要な行為」にも当たらないと判示。通勤遂行性の要件を欠き、逸脱中断後の事故とした。
逸脱中断後に発生 付随行為でもない
筆者:弁護士 石井 妙子(経営法曹会議)
事案の概要
亡Aは、医療機器の販売等を目的とするT社に勤務していた者であり、同人の死亡当夜の行動は次のとおりである。亡Aは、T社が会員となっている社団法人Jの委員会および同委員会の後の忘年会に出席し、午後8時頃に中締めをして、残った者でさらに午後10時40分頃まで飲食を続けた。帰途、中締め後も残っていたT社の同僚Nに声をかけて近くのラーメン店で打ち合わせや雑談をし、午後11時15分頃にNと別れ、約1時間後に自宅に帰る途中駅のプラットホームから転落するなどして死亡した。
亡Aの配偶者であったXは、労災保険法に基づく遺族給付および葬祭給付の請求をしたが、中締め後およびラーメン店における飲食後の事故は、通勤経路から逸脱・中断した後の災害であるとして、いずれも支給しない旨の処分(以下「本件処分」)がなされた。Xは審査請求および再審査請求をしたが、棄却の決定および裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて提訴した。
判決のポイント
1 「通勤」とは
通勤災害における「通勤」とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、…
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